1997年度に経済産業省において開始された学校や商工会議所等における「起業教育」推進の取り組みは、10年間の時を経て2007年度末に、いったん終止符が打たれた。しかし、「生きる力を育む教育」として”誰にとっても、有益であり、必要な学び”である起業教育は、国の支援がなくなった今こそ自立的な取り組みが必要であると考えられ、今各地の学校等では、「起業教育」の必要性やその効果を実感した人達を中心とした独自の取り組みが継続されている。
起業教育推進の取り組みは、1997年10月に経済産業省(当時通商産業省)に「アントレプレナー教育研究会」が設置された時から開始された。翌年7月に報告書「起業家精神を有する人材輩出に向けて」が取りまとめられ、翌々年の1999年度から現場の取り組みを支援することを目指した事業が開始された。
当初は、社会人講師を学校に派遣し、教員を企業に研修派遣する「起業家教育交流促進事業」と、起業教育の教材を開発する「起業家精神涵養教材等開発事業」の2つの事業が開始された。
しかし、「起業家教育交流促進事業」では、事業が規定する取り組みよりも、独自のプログラムにより成果を上げる例が出始めた((株)セルフウイング・早稲田ベンチャーキッズR実行委員会「早稲田ベンチャーキッズR(早稲田V-KidsTMキャンプ)」、(株)シー・イー・エス(現ビジョナリー・エクスプレス(株)(VEX))・大阪商工会議所「キッズ・マート」、仙台市立柳生(やなぎう)小学校「柳生小バーチャルカンパニー」など)。
また、「起業家精神涵養教材等開発事業」では、予算を持たない学校において、正規の科目ではない副次教材が、そう簡単に普及するものではないという問題が明らかになった。
そのため、3年後の2002年度には両事業は統合されて「起業家教育促進事業」に衣替えされた。これは、民間企業等による起業教育プログラムをモデル自治体内の小中高等学校において実践する事業で、その後2006年度まで継続された。
また、経済産業省では、「創業・ベンチャー国民フォーラム」の一環でも「地域起業活性化事業」として、全国各地で起業教育の推進の支援や関連シンポジウムの開催などが2007年度まで行われた。
一方、2003年6月に、急増するニート・フリーターの問題を背景として政府から「若者自立・挑戦プラン」が発表された。これを受けて、2004年1月には文部科学省が「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書~児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てるために~」を発表し、学校教育に「キャリア教育」が正式に位置付けられた。経済産業省でも2005~2007年度には「地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト」として、全国各地のNPOや企業等によるキャリア教育への取り組みが支援された。
国による以上のような様々な支援を受けて、起業教育やキャリア教育は、「生きる力を育む」という学習指導要領の基本的方針にも合致する教育として、2007年度までに、各地の小中高等学校で実践されるようになった。
国による直接的な事業支援がなくなった2008年度から、これらの取り組みがどうなっていくのか注目されるところだが、その必要性や効果を実感した学校や地域の諸団体において独自の取り組みが継続されている。
例えば、山形県の米沢市立南原中学校では、1年生から3年生までの継続した体系的な学習として起業教育に取り組んでいる。また、愛知県の瀬戸商工会議所では、陶磁器産地である特長を活かしたキャリア教育を市内小中学校において展開している。宮城県では、県独自の事業として起業教育を含む教育を”協働教育”として総合計画にも位置付けて展開しているが、来年度からその取り組みをさらに拡充・定着させようとしている。
一方、起業教育の支援事業実施時に、支援側が実績としての数の増加ばかりを目指したことなどで受身の姿勢でモデル校になった例もみられた。支援される側は何もしなくても講師が派遣され、費用負担なく企業見学等に行くことができた。このようなケースでは、残念ながら支援が切れた後に取り組みが継続されることは難しいだろう。
しかしながら、元々やる気があり、起業教育を実践したかったところに支援の手が差し伸べられた場合には、今後も脈々と取り組みは継続されるに違いない。”誰にとっても、有益であり、必要な学び”である起業教育は、やめてしまってよいものではないからである。今こそ自立的な取り組みを期待したい。
資料)経済産業省中部経済産業局「平成18年度創業意識喚起活動事業(起業家教育促進事業)起業家的な資質・能力と精神を育む学び 起業家教育導入実践の手引き ~未来を拓く子ども達を育むために~」(2007年3月)
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