地域産業振興の検討に当たっての経済循環構造分析

2008/10/06 秋山 仁
地域産業
産業振興
まちづくり

企業立地を促進する法律の施行もあり、多くの自治体が企業誘致に取り組んでいる。大規模事業所の新規立地が進む都市がある一方で、これまで大規模な事業所が立地していた都市圏内でも、事業所の流出が進み都市活力の低下が懸念される都市もある。
このように、都市、地域を取り巻く産業立地と経済環境が変化し、また、地域間の経済格差の拡大が指摘される中で、地域における産業政策の重要性がこれまで以上に高まっている。
地域における経済産業政策の立案に当たっては、その前提として地域を取り巻く経済循環の現状把握が必要である。地域経済の循環構造を把握するためには、対象地域における産業連関表の作成とこれを活用した経済循環構造の分析が有効であり、こうした分析の実施を促進するために、経済産業省では分析の手法を解説する手引きが作成されている(注1)。
地域経済循環分析の重要性を認識した自治体の間では、大学や調査機関の支援を受けて分析に取り組むところが出てきている。例えば、島根県が県内の圏域単位で圏域産業連関表の作成と地域経済循環の分析を行っているほか、安来市、出雲市(島根県)などの市でも同様の取り組みが行われている。また、旭川市(北海道)、舞鶴市(京都府)、相模原市(神奈川県)など、幾つかの都市でも産業連関表の作成が行われている(注2)。
一部の自治体にこうした動きがみられるものの、地域経済の循環分析に取り組む自治体はまだまだ少数であり、多くの自治体では産業政策の立案や実施事業の検証において地域経済の循環構造に着目した分析は行われていない。むしろ、都市レベルでの産業振興の政策立案に際しては、施策の主たる対象を中小企業や商店街などに設定せざるを得ないといった事情もあって、都市を取り巻く経済循環についての分析はほとんど行われていないのが実情である。
都市や市町村を越えた都市圏単位での地域経済循環分析を行うための重要なツールとなる産業連関表の作成には、産業間の取引関係の実態把握が容易ではないなどの技術的な問題も多く残されている。しかし、都市や地域の経済がどのような構造で成り立っているのかといった現状把握があって、はじめて、今後の構造変化への適切な対応が可能となる。外部の経済環境や地域内の産業立地の変化、財政や社会保障などの制度変更などが、地域経済にどのような影響を与えるかについて検討するための基礎的な分析としての地域経済循環構造分析は、産業政策のためだけではなく、地域を維持、発展させていくための政策検討のベースとして重要となっている。

(注1)経済産業省では、平成18年に「地域経済構造分析の手引き」を作成し、市町村を越えた都市圏単位での地域経済循環分析の具体的な手法について紹介している。
(注2)地域の産業連関表は、近畿地域などの広域ブロック、都道府県、政令指定都市において5年間隔で作成されているが、その他の市町村や市町村を越えた都市圏単位での産業連関表の作成の事例は限られている。

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