市街地を縮小へ導くデュー・デリジェンスの可能性

2008/10/20 轟 修
自治体経営
官民協働
国土計画
災害対策

今夏は記録的な集中豪雨があり、各地に浸水やがけ崩れといった被害をもたらした。
こうしたニュースを耳にして「(その場所は、そもそも)人が住める場所だったのか」という見方が示されることがある。我が国の人口が既に減少に転じ、2015年には世帯数も減少すると予想される中で、無理矢理に人が住めるように国土を改造する必要はなく、また、これまでに改造した国土を維持していくことはコスト高とする識者もいる。これは今日の都市域を縮小(シュリンキング)していくべきとする論調とも符合する考えである。
では具体に、こうした災害被害をうける可能性の高い地域(=ハザード地域)から、どうやってシュリンキングしていけば良いだろうか。
まず伝統的な都市計画手法である、いわゆる”線引き(区域区分制度)”強化があげられる。しかし、これまでの都市計画規制が、なし崩し的な例外規定が設けられることで機能不全に陥ってきた歴史を鑑みると、規制強化だけではシュリンキングしていくことは期待しにくい。また昨今の世情からすると規制強化という言葉自体への拒絶感も根強く、合意形成を得ていくことも一苦労しそうである。
筆者は、かつての住宅金融公庫の融資基準が我が国の住宅質の向上に果たした役割を評価しており、融資条件が持ついわば空間規制力に着目して、次のような方法を考えてみた。
ハザード地域での新築・改築への融資において、災害リスクを組み込んだプレミアム金利を上乗せする(優良エリア・宅盤のかさ上げ等をする物件には逆に低利で融資する)といったイメージである。結果が現れるまでには時間がかかるが、この融資金利差による方法はハザード地域からの撤退を後押しし、長期的には都市域を縮小・淘汰させていくことができると考える。このリスクに応じてプレミアムを上乗せする考えは目新しくなく、現行の地震保険でも地域によって掛け金が異なっていることと同じである。
そして、これを具体にしていく技術は、それほど難しくない。まず金融機関に災害リスクを評価する能力が求められるが、これは不動産デュー・デリジェンスが広義の災害リスクを含むことで対応できる。例えば土壌汚染の事前調査では机上レベルからボーリング調査までの数段階の調査レベルが用意されているが、同様に自治体が整備しているハザードマップを基にした机上調査が最も簡便な審査手法となる。ただし、その前に災害リスクと住宅ローンとの関係について実証的データの蓄積とそれに基づく検証が必要となるだろう。
問題はむしろ、実施体制などの制度設計にあると考える。例えば、1社のみがこうした貸付の厳格化を行っても、他方で低利融資を行う金融機関があれば、この手法は成立しない。
我が国の都市計画が経済的インセンティブ手法を自家薬籠していないことはよく指摘されている。人口減少下の土地利用のあり方を考えていく上で、シュリンキング後の土地利用も含めた都市計画と金融とのリンケージについて議論を進めていく必要性を指摘しておきたい。

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