要介護認定改正の背景と見通し

2008/12/01 岩名 礼介
要介護認定

介護保険制度は、平成21年度(2009年度)は制度開始以来3回目の制度改正を迎える。介護予防事業の展開など大規模な制度改正は平成18年度に実施済みであり、制度全体としては、今回の改定は小規模なものと考えられるが、要介護認定に関しては、抜本的な改正となる見込みだ。現段階で制度改正の全容は明らかにされていないが、現在全国で展開されている新制度の第二次モデル事業の内容を見る限り、コンピュータシステムに用いられるデータの総入れ替え、調査項目の削減と追加、審査会用資料の書式および内容の全面見直しなど、比較的大規模な制度改正となっている。
地方分権化の流れの中で制度設計された介護保険制度は、サービス提供のあり方については、各保険者(自治体)の自律的な運営の中で決定される分権化方式が採用されており都道府県、市町村の権限が大きいが、保険給付の資格審査(つまり要介護認定)については社会保険制度として全国統一基準による運営を義務付けている。
ところが実際には全国的に認定率(被保険者に占める認定者の割合)や保険者に設置される介護認定審査会の審査状況は、看過できないほど大きな地域間格差を生み出していた。現行制度では、コンピュータによって算出された要介護度(一次判定結果)について、介護認定審査会(保険者が設置)が軽度・重度への変更の必要性を審議するものとされているが、この重度変更率も、最小の自治体では約2%、最大で40%超と大きな開きが認められる(平成19年度要介護認定適正化事業報告書)
こうした状況に対し、厚生労働省は平成19年度より要介護認定適正化事業を展開し(現在も継続実施中)、地域間格差が発生する要因を分析しつつ、各審査会に改善のための技術的助言を展開している。この事業では、訪問調査員の手法や資料記載内容、審査会運営、事務局運営方法に加え、国の示しているマニュアルの記載の不備なども問題点として指摘しており、「調査」「審査会」「制度」といった制度を構成する各方面の改善と最適化が必要と結論付けている(平成19年度要介護認定適正化事業報告書)。つまり、何かひとつの要因がボトルネックになっているというのではなく、様々な要因が絡みあって、問題を複雑化させ、運用にバラツキをもたらしていると指摘している。
適正化事業の結論は、現在モデル事業が実施されている新資料書式案にも十分に反映されており、法令等により規定されている審査の審査プロセスを平準化するという厚生労働省の意向を読み取ることができる。ただし、制度の設計思想を大幅に変更するものではなく、むしろ本来の制度趣旨に合うよう、現行の運用ルールを最適化するという考え方に基づいているということから言えば、大改革ということではなく、最適化/改善といった方が適切かもしれない。
平成21年度の改正は、現場の審査会に従事する専門職、調査員、保険者職員に業務内容の大幅な是正を促す内容となる可能性が高いが、より前向きには平準化に向けたよい機会となるだろう。介護保険については、制度の持続可能性という観点からは、入り口にあたる認定の平準化は議論すべき重要なポイントである。
他方で、各保険者の財政状況や地域の専門職従事者の審査会運営への協力体制は人的にも、財政的にも負担となっているとも言われている。審査には一定の時間とコストがかかっており、医師をはじめとする審査会委員の確保も各地域で困難になりつつある。審査件数は、高齢化の進展にともない、今後も増大するはずだ。各地域での審査体制のキャパシティーを確保しながら、膨大といわれる審査業務をどのように効率化していくのかについては、今後の残された課題といえるだろう。

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