医療機器産業への新規参入を検討する際の参考として
近年、人口高齢化を背景に健康・医療分野に対する関心が高まっている。こうした中で、この分野への参入を検討する企業も少なくないと考えられる。当社への相談も頻繁である。以下、簡単ではあるが、異業種から医療機器への新規参入を検討しようとする際に参考になりそうな情報をまとめた。
医療機器の国内生産額および輸出入額について
わが国の医療機器産業の特徴としてよく指摘されることは、治療機器に比べて診断機器の開発が盛んであることと輸入超過であることである。
医療機器の国内生産額をみると約1.7兆円で前年比7.4%増となっている。国内生産額はここ数年堅調に伸びている。これを医療機器の分類別にみると、上位は、画像診断システム(4千億円,23.7%)、処置用機器(2千6百億円,15.6%)、生体機能補助・代行機器(2千億円,11.3%)である。
医療機器の輸出入額をみると、医療機器全体の輸出額は5千億円、輸入額は1.1兆円である。6千億円の輸入超過となっている。これを医療機器の分類別にみると、画像診断システムが輸出額の4割を占め、生体機能補助・代行機器と処置用機器の2分類で輸入額の5割を占める。(※データは厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」)
医療機器の研究開発・製品化をめぐる環境について
わが国における医療機器の研究開発・製品化をめぐる環境整備は着実に進められている。医療機器の研究開発を行う際には、こうした動きを活用し、効果的な投資を行うことが重要である。
政策的には、たとえば平成19年に「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」が策定された。これは厚生労働省、文部科学省、経済産業省の連携によるもので研究から上市に至る過程を一貫支援するための政策パッケージの戦略がまとめられている。平成20年には厚生労働省が「新医療機器・医療技術産業ビジョン」を発表している。経済産業省は「技術戦略マップ」を発表し、この中で、医療機器の研究開発の企画・実施の道しるべとなる情報を提供している。
学術的には、わが国の医用工学を代表する学会(日本生体医工学会、日本人工臓器学会、日本コンピュータ外科学会等)が医療機器の「臨床応用」を強く意識した活動を行っている。主要な大学では「医工連携」部門が設置され、産学官による医療機器開発が推進されている。また、平成19年にはNPO法人医工連携推進機構が設立され、医工連携コーディネータ協議会による企業と研究者との具体的なマッチングの試みがスタートしている。
医療機器に関する薬事法上の規制について
医療機器の製造販売を行うためには、医療機器の安全と品質の確保のために、医薬品と同じように薬事法上の許認可が必要になる。医療機器の研究開発を行う際には、この許認可の手続き念頭に進めなければならない。そのためには研究開発のできるだけ早い段階で、審査を踏まえた助言を行える専門家を研究開発体制に加えることが重要である。
以下、医療機器の審査の部分について簡単に説明する。まず、医療機器は人体へのリスクの程度によってクラスI~IVの4つに区分され、どのクラスに該当するかによって許認可の手続きが異なる。クラスの数字が増えるほどリスクの高い分類であり、クラスIはたとえ医療機器に不具合が生じても人体へのリスクが極めて低いと考えられるものが該当する。一方、クラスIVは患者への侵襲性が高く不具合が生じた場合に生命の危険に直結する恐れがあるものが該当する。
クラスIの医療機器(一般医療機器)は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)への届出を行えば製造販売が認められる。クラスIに該当するのは、X線フィルムやメス、手術台などである。
クラスIIの医療機器(管理医療機器)については、適合性認証基準(JISなど)が制定されている場合は、第三者認証機関での審査を受ける。基準に適合していることが確認されれば製造販売が認められる。第三者機関による認証の仕組みは、2005年4月1日に施行された改正薬事法で導入された。クラスIIに該当するのは、心電計、補聴器、家庭用マッサージ器などである。
クラスIII、IVの医療機器(高度管理医療機器)は、もっともハイリスクであるため、PMDAによる承認審査を受け、その安全性、有効性が認められる必要がある。審査に合格すれば、厚生労働大臣によって製造販売が承認される。クラスIII、IVに該当するのは、ペースメーカー、人工心臓、冠動脈ステント、人工血管、人工関節、透析機などである。なお、クラスIIのうち適合性認証基準のない機器についても、高度管理医療機器と同様の承認審査が必要となる。
医療機器の早期導入に向けた動きについて
わが国の新規医療機器の審査期間は平均19.7ヶ月(平成18年実績)である(※データはPMDA資料)。患者が必要な診断・治療を早期に受けられるよう、企業にとっては医療機器の競争力を高められるよう、審査期間のいっそうの短縮が期待されている。
こうした状況への対応策の1つとして、厚生労働省は平成18年より「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」を設置し、国内で未承認又は適応外の医療機器等のうち医療ニーズの高いものを選定し、これらを医療現場に早期に導入できるよう検討を進めている。医療ニーズの高い医療機器としては人工心臓等17品目が選定されている。
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