“知の楽しみを分かち合う” 文化施設

2009/01/13 岩室 秀典
文化施設

文化ホール、美術館、博物館などの文化施設は、全国に1万近くあるとみられ、私たちにとって身近にある施設となっている。文化施設というと、高貴なクラシック音楽、理解できない抽象画、うら寂しい博物館、独特の堅苦しい雰囲気などを思い出す人も多いかもしれないが、知る喜びを分かち合うために知恵を絞って集客に力を入れている施設が結構、増えてきている。
作品の優れた点や制作の意図を伝えるために、アーチスト自身による解説付きコンサート、専門家や著名人による講演会、展示室で専門スタッフやボランティアが作品の前でする説明など、様々な機会が提供されるようになってきている。また、音声や映像によるガイド、クイズ形式のワークシートなどを用意している施設もある。例えば、国立近代美術館工芸館では、「ガイドスタッフによるタッチ&トーク」を定期的に実施し、来館者が作品を直接手でさわりながら解説を受けることができる。
展示の方法も様々な工夫がされている。例えば、広島県立歴史博物館では、中世の港町「草戸千軒」の町並みの一角を実物大で復元しており、長崎歴史文化博物館では、御白洲で当時の奉行所を再現した「寸劇」をユーモアを交えながら上演している。また、九州陶磁文化館では、陶磁器の後ろ側や裏側まで見ることができるように「鏡」を置いたり、作品を上下逆にして展示をしている。
参加者が、アーチストと一緒に作品を創ったり、アーチストから手ほどきを受けるワークショップも各地で開かれている。例えば、愛知県の「あいち子ども芸術大学」では、県内の文化施設で、小・中学生が第一線の芸術家等と交流しながら美術・音楽・ダンスを体験できる。岐阜県美術館では、企画展の開催に合わせてエントランスホールの床全体をアーチストと参加者が一緒につくった巨大な川のオブジェで埋め尽くした。
また、来館者が良かったと思った作品を投票したり、施設の職員と一緒に研究するなど、様々な参画型の取組もみられる。長久手文化の家の「劇王」は短編演劇を連続上演するイベントで、観客とゲスト審査員の投票により優勝者・劇王が決定する。
この他、乳幼児に対応した親子室でコンサートが聴けたり、留学生の日を設けて通訳スタッフを重点的に配置したり、聴覚障害者向けのコンサート、視覚障害者向けの映画会、高齢者劇団の設立など、ターゲットを設定してきめ細やかな対応に取り組む例がみられる。
人々の関心は十人十色から一人十色になったといわれる中、文化・芸術が一定のステータスを得ていた時代は過ぎ去り、アミューズメント施設、ショッピングセンター、スポーツ施設、時にはTVなどと、集客を競う時代になっている。こうした中、文化施設は、施設が有する資源(人・もの・資金・情報)を活かして、来館者に”知”の楽しみを提供していくことが重要である。
博物館総合調査等をみると、集客の増減について、近年、2極化の傾向が見られる。文化施設がより”身近”に、そして”知の楽しみ”を提供し、”新たな知”を創造する施設として、どれだけ多くの人に、質の高い時間や、他では味わえない時間を提供できるかが、一層問われている。

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