資源問題は終わったのか?

2009/01/19 清水 孝太郎
経済安全保障
サプライチェーン

2008年7月には史上最高値の147ドル/バレルを記録した原油相場であったが、同年末には30ドル/バレル台にまで下落した。鉄鉱石なども一時は資源メジャーが強気の価格交渉を展開していたが、今は立場が逆転してしまっている。その他、銅などといった非鉄金属も大幅に価格が下落している。資源価格だけを見るならば、資源問題は過ぎ去ったかのようにみえる。むしろ現在は世界経済の減速がよほど問題かもしれない。
しかし、筆者はここに新たな資源問題のリスクが潜んでいると考える。資源価格の下落によって収益率の低下した鉱山事業者や製錬事業者の吸収合併が進んでいく場合、資源の上流部門における寡占化は、今以上に進行する可能性があると見ている。相場下落の著しい資源や財務力の弱い鉱山事業者や製錬事業者が多く集まっている資源では、財務力のある資源メジャーなどがシェアを高めてくる可能性がある。寡占化が進んだ状態で、需給の逼迫感が市場を覆えば、供給側による強気の価格交渉が再現され、購買契約も容易にはまとまらなくなることが予想される。そうなると過日の資源問題に逆戻りである。
過日の資源問題を今になって振り返るならば、資源価格の高騰要因は資源の種類によっても異なるが、中国、インドなどといった新興国の資源需要が資源市場に対して需給の逼迫感を与え、それが相場高騰の直接的・間接的な要因になっていると思われる。現在、世界経済の回復に期待が集まっているところであるが、新興国の資源需要が息を吹き返せば、需給の逼迫感から資源相場は再び高騰する可能性がある。鉱山事業者や製錬事業者といった資源の上流部門で寡占化が進んでいる場合、資源の購買は以前よりも需要側に不利な内容となるであろう。
技術開発に時間を要する海底資源を除き、わが国は必要資源の大半を今後も海外からの輸入に頼らざるを得ない。各種資源を量や価格面から安定的に輸入できる体制をわが国で整えることは、わが国製造業の基礎体力を強化させることにつながる。製造業の安定的発展は、外貨獲得や雇用確保の面からも引き続きわが国の重要課題である。わが国としては、世界経済の回復を視野に入れながら、製品の原材料採掘から最終製品の供給に至るまでの複数企業をまたぐ一連の流れ(本コラムでは仮に「資源サプライチェーン」と呼ぶ)を総点検し、そのほころびを修復できるようにしておく必要がある。
「資源サプライチェーン」の点検および修復を優先すべき資源としては、社会インフラの維持に必須の燃料・原材料となる資源のほか、今後、重要度が高まる環境配慮製品や高機能製品でキー技術となる機能材料の資源などがある。前者の例としては、発電燃料、鉄鋼、導電材料向けの資源などが当てはまる。後者の例としては、航空機、原発用部材、ハイブリッド・電気自動車、太陽電池、バッテリー、風力発電機、LED、通信ファイバー、有害物質フリー製品(例:鉛フリーはんだ)向けの資源などが当てはまる。
「資源サプライチェーン」の点検では、最終製品に至るまでの資源採掘、素材・部品製造フローの整理、各工程を担っている事業者の顔ぶれ、これに影響を与える主要株主や現地政府の動向を整理することが必要になる。具体的には、海外における鉱山事業者や製錬事業者、素材メーカーの動向などを整理することが必要になる。仮に特定国や特定企業への依存度が高くなり、(わが国製造業からみて)資源供給の寡占化が進むおそれがあると判断される場合、資源国と友好的な関係を維持するための外交促進、また当該企業やその事業への出資、第三国・他企業から原材料を調達できるようにする体制の構築を行うことが求められる。このほか、第二の国内資源という意味では、スクラップのリサイクル促進も「資源サプライチェーン」上における重要な「バイパス」の一つになる。
競合関係にある民間企業が互いに連携しながら、「資源サプライチェーン」の点検や修復を行うことは容易ではない。ビジネス上の利害が一致しなければ連携は難しく、限られた一部の企業が連携しても「資源サプライチェーン」全体を俯瞰することは難しい。製造業を安定的に発展させる視点から、政府による率先的な「資源サプライチェーン」の点検および修復支援が望まれる。

執筆者

facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。