平成15年の地方自治改正法により、地方公共団体の所有する公の施設の管理全般を公益団体や民間事業者に行わせる「指定管理者制度」が導入されてはや5年が経過し、本制度における事業スキーム上の問題点が明らかになってきている。
価格優先の公募により選定された事業者が適切なサービス水準を保てないケースや、公募原則にも関わらず従来の外郭団体が特命で指名され、相変わらずの「お役所」仕事が続いているケース、経営効率を優先するため不採算となる事業が行われないケースなど、指定管理者制度を採用した施設の抱える問題も様々である。それらの結果として、指定管理者となった事業者が破綻したり事業継続を断念するといったケースが増えてきている。
これらに関係する一因として、「利用料金制度」と「料金収受代行制度(徴収委託方式)」の問題がある。通常の公共施設では、条例により施設の利用料金が定められ、その料金は指定管理者が徴収を代行するものの、最終的には地方公共団体の収入となり、別途、管理運営に必要となる経費が指定管理者に支払われるというのが料金収受代行制度である。一方、指定管理者となる事業者の経営努力を誘導し、会計事務の効率化を図る目的で、指定管理者が収受した施設の利用料金を指定管理者自身の収入とするというのが利用料金制度である。この利用料金制度は一般的に、収支採算がとれるような施設における採用が適していると言われている。これに対して、利用者に対して安価で公平なサービスを提供することに重点がある施設においては料金収受代行制度のほうが無難であるとされている。
【利用料金制度と料金収入代行制度の比較】
利用料金制度 | 料金収受代行制度(徴収委託方式) | |
---|---|---|
メリット |
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デメリット |
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しかし、事業者が破綻したケースをみると、経営者の経営努力を促せる利用料金制度を採用した施設が多いわけではなく、また事業リスクの低いはずの料金収受代行制度の採用事例であっても、「人件費が見込みより増大した」、「再委託先に丸投げをしていた」、「業務水準が著しく低下した」等の理由で事業継続が困難になるケースが増えている。行政・事業者双方にとって「こんなはずではなかった…」といった状況が多く発生しているようであるが、やはり制度の導入にあたっての事前準備が軽視されていた可能性は否めないものと思われる。すなわち
- 施設における事業特性の精査
収益性のみならず、事業ごとに求められる専門的ノウハウや事業者による工夫の余地などに関する評価が必要である。 - 競争環境の綿密な把握
公募による競争性の度合いによって、事業者に対して要求する業務水準の設定方法を調整する必要がある。 - インセンティブ及びペナルティの検討
料金収受代行制度であっても、目標設定による利益還元や指定管理料の見直し等は可能である。 - 事業者選定方法の設定
市場環境をにらみながら、価格と内容のバランスをどのように設定するか慎重な検討が必要である。 - モニタリング・ルールの検討
事業継続が困難になる前に、公民双方が事業上の問題点を発見し、改善につなげるための仕組みづくりが求められる。
といった検討を十分に事前に行っておくことが、指定管理者制度を有効な手法として機能させるために必要なことであろう。
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