昨年末あたりから、非正規従業者の雇用調整が盛んにマスコミに取り上げられているが、年末の各種統計の発表をみるにつれ、景気の底が全く見えない状況にすえ恐ろしさすら感じる。その最たるものが自動車生産の減少だろう。
我が国の乗用車の生産額は平成19年には17.6兆円であった(経済産業省「機械統計」)。平成20年の年間生産額実績はまだ出されていないが、同統計より平成20年11月の生産額をみると、2000ccを超える普通乗用車の場合、前年同月比▲37.8%である(ちなみに、660cc以下の軽自動車では+11.0%、660ccを超え2000cc以下の小型乗用車では▲7.1%)。トヨタ自動車が1月20日に発表したところでは、2008年のグローバルベースの販売台数は、前年比4%減とのことだが、上記統計から概算すると、2008年の年間乗用車生産額が、前年比数パーセント減になることは間違いないだろう。
では今年はどうなるのだろうか。先にみた2008年11月の実績からは、2009年の生産額が2008年比半減してもおかしくないのではないだろうか。いたずらに不安をあおることは避けなければならないが、ここでは仮の計算として、本年の乗用車生産額が前年比半減にほぼ相当する8兆円の減少を想定して、その時の他産業を含めた経済への波及効果を試算してみた(経済産業省「平成17年延長産業連関表」を利用した)。
その結果、乗用車▲8兆円(1995年生産額比▲54.4%)に加えて、自動車車体、自動車用内燃機関、自動車部品といった自動車関連部門への影響が▲7.9兆円(同比▲24.7%)となり、これらを合わせると16兆円近くの生産額の減少が生じることになる。ここで試算の前提としているのはあくまでも乗用車の生産減である。トラックやバスの生産減や、自動車産業の設備投資意欲の減退の影響は含まれていない。
さらに他の産業への影響を見ると、生産額の減少幅が大きいのは、鉄鋼(約▲1兆円)、商業(マージン部分:約▲0.8兆円)、その他の対事業所サービス(約▲0.8兆円)となる。そしてこれらを合計した我が国全体の生産額では約▲24兆円(同比▲2.6%)となる。乗用車生産の大幅な減産が我が国に如何に大きな影響を及ぼすかがよく分かる。
また、生産の減少率が大きい産業をみると、その他の電気機器(同比▲7.3%)、プラスチック製品(同比▲4.5%)、非鉄金属(同比▲4.3%)、鉄鋼(同比▲3.9%)、合成樹脂(同比比▲3.0%)、再生資源回収・加工処理(同比▲2.8%)となっている。裾野の広い自動車産業は、部品や素材関連にとどまらず、関連するサービス、リサイクルの分野にまで広く影響が及ぶ。
こうした生産額の減少は労働需要の減少となる。今は期間従業員の削減、出勤日数の調整などに表れている段階だが、今年の生産減少を見通すと、正規職員を含めた雇用調整が本格化する可能性は低いとは言えない。雇用のセーフティネット整備に向けて万全の体制を整える必要があるだろう。
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