コーポレートユニバーシティ(CU)は必要か?
「コーポレートユニバーシティ(CU)」を聞いたことはあるだろうか?企業内人材育成を戦略的に実行する制度・枠組みのことで、「企業内大学」とも呼ばれている(注1)。大企業の中には、CU専用の研修施設を持つところもある。アメリカでは1950年代から誕生しており、著名なものとして、ゼネラルエレクトリック、IBM、キャタピラー、ボーイング、ザ・リッツ・カールトン、マクドナルドなどのCUがある。CU設立の波は欧州やアジアにも及んでおり、世界に約4000のCUがあるといわれている。
日本では、1990年代末頃から、大手製造業を中心にCU設立の第1次ブームがおきた。これは、バブル経済崩壊後の混乱を乗り越えて、企業内人材育成の再構築をはかる手段としてCUに着目したからであった。そして、2000年代半ばからの第2次ブームでは、サービス業など非製造業に新たに拡がると共に、中小企業での取り組みも始まっている。現在では、トヨタ自動車、キヤノン、富士通、ソニー、損害保険ジャパン、資生堂、博報堂などのCUが知られている。
ところで、「従来の研修部門とCUは何が違うのか?看板の掛け替えだけではないか?CUを導入する必要はあるのか?」という意見がある。実際、CUと名乗っていても、従来の研修制度・施設と大差ないものは少なからず存在する。しかし、CUに本来期待される重要な役割がある。従来型研修部門は主に知識・スキル教育や階層別教育を行うが、CUはそれに加えて、経営理念・ビジョンの浸透や選抜型リーダー育成など、人材面から経営課題の解決に取り組んでいる。また、「ユニバーシティ」という名称のとおり、企業を”学習する組織”とみなし、業務と教育研修活動の連携強化によるパフォーマンス発現を図っている。さらに、「ユニバーシティ」の”学長”に経営トップを据えることで、戦略的人材育成にとって最も必要な「経営者のコミットメント」を引き出しているのである。
CUといえば大企業の例が紹介されることが多いが、実は中小企業にも優れた取り組みがある。ある中小企業では、社内研修に加えて社員個人の学習活動やボランティア活動もCUの単位制度で評価し、報償などで更なる学習を促している。また、社内講師を務めた場合は単位を2倍付与するなど、社員同士の学び合い・交流の活性化を後押ししている。このように、大きなコストをかけずに、社員の自律性の喚起と制度の工夫による手作り的なCUで、”学習する企業文化の醸成”に取り組み、大きな成果を上げている。
近年の世界的な不況の中で、企業内人材育成に後ろ向きになる企業は少なくないだろう。しかしこのような時こそ、戦略性を持ったメリハリある人材育成活動を行うと共に、社員と企業が一体となって”学習する組織”を実現する基盤として、コーポレートユニバーシティ導入に取り組んでみてはいかがだろうか?
(注1)”ユニバーシティ”に加えて、”インスティテュート”、”アカデミー”など様々な呼称のものを含む。
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。