仮説検証型の地方公共団体のマーケティング

2009/07/13 平野 誠也
地方
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WEB検索で、地方公共団体のマーケティングを検索すると、多数ヒットする。地場産品等の市場開拓などを目的としたものが多い。地場産品という商品が明確であるので、民間企業が行っているマーケティングを応用しやすいためであろう。しかし、地方公共団体のサービスは、地場産品等の振興だけではない。福祉サービス、市民サービス、文化振興、都市再開発など、ソフト・ハード問わずすべての施策や事業が地方公共団体のサービスだ。これらのサービスについてもマーケティングを実施することは重要だ。
マーケティングの最も基本的な手法はアンケート調査だ。アンケート調査は、地方公共団体では、かなり実施している。まちづくり、男女共同参画、教育など、それぞれの分野の施策を実施するために、市民などに対するアンケート調査などだ。公共施設の利用者満足度調査も実施している。これらのアンケート調査の多くは、地方公共団体が「こういうことを市民に聞きたい」、「県民がどういうことを考えているのかを知りたい」という発想で設問を作成していることが多い。もちろん、これらを分析することにより、住民のニーズや現状などを知ることが可能である。その結果を活用して、実施するべき施策や事業が必ずしも適切なものとならない場合もある。結果を見て、実施するべきことが分からないことさえある。実際に、県民意識調査を毎年実施しているところが多いが、それらを活用して施策立案等に活用していることが見えにくい。この原因の1つは、意識調査の結果を施策に反映する仕組みが構築されていないことだ。広聴課が実施した調査を、各部各課が活用できるような仕組みがないのだ。もう1つの原因は、調査項目が仮説に基づいていないことだ。よく分からないから、とりあえず住民の声を聞いてみようという単純な発想で調査項目を設定していることが多い。マーケティングを実施する際には、仮説構築は不可欠だ。
そのような問題意識をもって、大阪府で、「政策マーケティング・リサーチ ガイドライン」を作成している。「大阪府政の意思決定の手法を根本から転換することをめざして」作成されたもので、現時点では、既にバージョン4となっており、適宜、更新・充実をしている。このガイドラインで書かれていることは、大変参考になる。まず、仮説構築することが必要であることが明記され、その仮説構築の方法も示されている。必要なデータを収集・分析した後、その仮説を検証することにより、府政の意思決定に活用するべきであると示している。必要なデータを収集する手法としては、アンケート調査以外の方法も示されている。
特に秀逸な点は、仮説構築に当たって、行政で対応すべき府民ニーズと、事業とを結びつけていることだ。このような仮説を構築しておけば、調査結果をふまえて、実施するべき事業を判断することが可能だ。また、実施するべき事業が既存の事業である場合、事業効果の検証にもなる。後半には、実際に実施した例も紹介されており、大阪府以外の地方公共団体でも、是非参考にされると良い。
住民ニーズが多様化する一方で、十分な財源を確保できない状況にあっては、効果的な施策や事業を的確に判断していくことが求められる。従来型のとりあえずニーズを聞いてみるという調査は、意思決定に活用できるかどうかは不明だ。仮説を構築して、それを検証するというマーケティングを実施していくことが重要だ。そのためには、地方公共団体職員は、仮説を構築する能力を向上することも必要だ。

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