都市開発事業の延期や頓挫が全国で相次いでいる。2007年9月に施行された金融商品取引法により不動産流動化手法が使いづらくなったことや金融機関の融資の厳格化に加えて、リーマンショック以降の世界的な不況により、事業の価値(バリュー)が急減・不安定化しているためである。2002年の都市再生特別措置法の施行後、大都市を中心に大規模プロジェクトが相次いで完成し、我が国の都市の魅力は大きく向上した。外資系企業が大規模プロジェクトにより整備されたオフィスビルに入居し、海外からの観光客が話題の商業施設を巡る状況を見れば、こうした都市再生事業は我が国の都市の国際競争力の向上にも一定の効果があったと評価できよう。
しかし、一方で都市再生事業は、都市開発のあり方に大きな課題も残している。近年大都市で相次いで完成した都市再生事業の多くが、金融の自由化が進むなかで高度化した金融技術を駆使した不動産流動化手法を用いている。不動産流動化手法では、不動産会社や金融機関といった従来の都市開発の担い手以外に、投資銀行や機関・個人投資家、アレンジャー、アセットマネージャー、格付機関など多くのプレーヤーが参加することとなった。そして、こうした多様な主体が参加する都市開発事業は、完成後の売却によるキャピタルゲインが開発推進の大きな動機づけとなっていることが多い。そのため、売却(出口)自体が事業の目的となり、出口までのプロセスは、金融商品としての事業価値の最大化(賃料収入の拡大)にエネルギーが集中されることになりやすい。本来都市再生とは、オフィスビルやマンションを大量供給することを短絡的に意味するものではなく、地域に現存する環境資産を最大限活用し、都市における各種の企業活動や市民活動を活発化し、持続可能でより質の高い都市の生活を実現することである。多くのプレーヤーが関わる出口ありきの都市開発事業では、時間の経過とともに長期間にわたって効果が発現してくるこうした都市再生事業のストック効果に注意の目が向けられるのは難しいのかもしれない。現在不況の中で都市開発事業の延期や頓挫が散見され、国による各種金融支援も検討され、実際に実行されつつある。その支援策に求められるのは、一時的な金融支援策にとどまらず、こうした都市再生事業のストック効果を継続的に評価し、その評価結果に応じて運営段階で効果的な支援が受けられる実効性の高い都市再生関連施策である。
また、運営段階だけでなく開発段階においても国による有効な支援策が必要である。都市再生事業を魅力的なものにしていくプロセスでは、様々な規制・基準等が手足を縛ることが多い。法律に明文化されていなくても、自治体の運用基準や技術基準等による画一的な運用のため、葬り去られた開発や事業のアイディアは数多い。その背景には自治体側の経験・人材不足があげられる。都市開発事業の開発協議の現場における法令の解釈に当たっては、有識者にとどまらず都市開発やまちづくりの現場を熟知した実務者が参加する第三者機関が開発許可等の可否を短期間で判定するシステムを国として整備すれば、個性的でユニークな都市再生事業が全国各地で生まれ真に都市の魅力を競い合う質の高い都市再生へ発展していくのではないか。現在見直しが進む都市再生関連施策の今後の動向に期待したいところである。
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。