従来我が国の経済を牽引していた家電や情報通信などの業界が近ごろ元気ない。新しいヒット商品が生まれていなかったり、韓国企業の追い上げが激しいことなどが言われているが、インターネットの出現で加速している、経済のグローバル競争に立ち遅れていることが一因としてあろう。
商品力、技術力などで海外企業に伍していくだけのポテンシャルを持ちながら、国内市場では強くても、海外市場で勝てなくなることを、最近では「ガラパゴス化」と呼ぶようになった。これは、一定の規模がある国内の成熟した市場をメインとして事業を組み立て、日本のユーザーニーズにあわせた高機能・高品質な商品を投入したり、国内仕様に特化した製品開発を行うことで、海外市場が求めるものとかけ離れてしまっていることを示している。すなわち、国内市場に過度に適応してしまうことで、グローバル展開ができなくなっている状況である。よく例としてあげられるのが携帯電話である。かつては「国際競争力の源泉は日本市場にあり」ということで、ゲームや音楽の配信などに対応する高機能な携帯電話機を持つことは、将来的に世界市場で大きな収益を得ることを期待させたが、実際はそうならなかった。携帯電話機の国内市場をほぼ押さえている日本企業は、世界市場でのシェアは2割にも満たない。
では、こうした状況を打破し、我が国の産業を活性化するにはどうしたらよいだろうか。
「生活スタイルや文化など日本のソフトパワー」と「ユーザーニーズや思いを実現する技術力」をベースとした展開が鍵だと考える。クールジャパンと言われるように、日本のアニメやファッションといったサブカルチャー、武道や着物といった伝統文化・伝統工芸などが世界の注目を浴びている。また、世界の都市ランキング(注1)で東京が3位となるなど生活の質も高い。こうした日本のソフトパワーを生かし、工業製品における技術力並びにブランド力の高さを加えることで、新しい価値をグローバルに提供することができるものと思われる。例えば、自動車を例に挙げると、渋滞の多い日本ではクルマを走るリビングとして捉えた商品が多いが、日産では遅く見えるデザインのキューブを輸出することにし、現地での評判も良いとのこと。また、日本独自の商慣習である名刺を生かして、社内のナレッジ共有を図るサービスを手がけるベンチャーも出てきており、中国などへの展開も視野に入れているとのことである。
ソフトパワーを生かしたビジネスは、マーケティングとアイディアを事業化していくプロセスが重要になってくる。IT業界で行われているように、市場ニーズにあったアイディアを即座に提供できる形にし、ユーザーの声を踏まえて次々と改良を重ねていく、トライアンドエラー式の取り組みが求められるだろう。
(注1)英国の雑誌「MONOCLE」が選んだ「質の高い生活がおくれる都市のランキング(2009年6月)」。都市としてのまとまりのよさ、交通機関、インフラの充実、近代的建築物、一流のレストラン、環境問題等が選択基準。1位はコペンハーゲン、2位はミュンヘン。東京以外の日本の都市では、福岡17位、京都20位となっている。
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。