専門委員会の落とし穴~学校や公共団体の資金運用

2010/04/19 奥田 亘
金融
公共団体

一般の「金融市場」で資金の管理・運用を行う(当然、長年の取引先銀行へ預金することも含まれる)以上は、学校法人や公共団体などの非営利団体においても、資金管理担当者・責任者は「その道の専門家として求められる充分な」注意を尽くす義務がある。換言すれば、いかに高邁な目標を掲げ、熱意をもって本業(教育・研究や公共の福祉)に精進している団体といえども、素人判断があったことを理由に資金管理上の失敗を「お目こぼし」してはもらえないという事実は、これまでに知られている数々の巨額損失発生(とその後のドタバタ)に関する事例が証明しているということだ。こうした失敗を避けるために必要な体制を自前で備えている団体は極めて少ないとみられ、特に専門性の不足を補うために近年導入が進みつつあるのが資金管理委員会や資産運用委員会などの「外部有識者による専門委員会」である。しかしながら筆者は、こうした専門委員会の運営実態に疑問を抱いている。
ここで失敗の本質に立ち返ると、問題は「損失が発生したこと」そのものではない。「充分に情報を与えられた」当該団体の利害関係者(地方公共団体であれば、当然に地域住民を含む)が「あらかじめ合意している」範囲内での損失発生であるならば、それは全く問題ではない(例えば、「元本から1円の損失が生じることを避けるために金利が2円少なくなっても構わない」というような判断を下すことは、経済的には明らかに不合理である。このようなケースに限らず、損失発生に関する事前合意というのは、資金運用の世界では決して机上の空論ではない。)。但し、「専門委員会で了承を得たこと」を、そのまま「利害関係者の合意を得たこと」と解釈してしまうのは、明らかな錯覚である。専門委員は決して代議員という訳ではないのだ。
では専門委員会が利害関係者による「充分に情報を与えられた上での合意」と無関係かというと、これも誤りであろう。利害関係者に対して「充分な」情報を提供し、適切な合意を形成していくためには、外部の専門家による検証過程を詳らかにし、重大な論点や判断基準を隠さず提示することが必要かつ効果的だと考えられるためである。
せっかく専門委員会を設けても、そのメンバー構成や議事内容を利害関係者に対して明かすことができないのならば、宝の持ち腐れである。親しい学識経験者や(筆者のような)取引先関係者「だけ」を集め、予定調和的なセレモニーとしての会合を「専門委員会」と呼ぶならば、それは害にしかならない。

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