本年3月末に経済産業省から発表された平成21年の工場立地動向調査結果(速報)は、前年比、件数で▲46.4%、面積比で▲38.3%と大きな減少を示している。このように、工場立地の環境は非常に厳しい状況にあるが、企業誘致への取組は、地域における産業政策の中で、依然として大きな位置を占めている。
厳しい財政状況の中で、企業誘致をはじめとする産業政策の予算を確保するためには、政策の妥当性と期待される効果について、市民や議会の理解を得るための説明材料が求められる。また、幸いに企業誘致に成功した自治体においても、立地企業がもたらす地域経済への効果の検証は不可欠である。
このような地域における産業政策を検討するためのベースとして、筆者は、2008年10月のサーチ・ナウ「地域産業振興の検討に当たっての経済循環構造分析」の中で、地域経済循環構造の分析の必要性と、分析ツールとしての産業連関表の作成に取り組む自治体を紹介した。その後、複数の自治体や国の機関等から、地域経済循環分析の実施について相談を受けたが、実際に予算を確保して分析の実施に至る自治体は極一部であった。多くの自治体にとって、分析の実施に必要なノウハウの不足や予算面の制約等により、産業連関表の作成を含む地域経済循環分析に取り組むことは容易ではなく、分析の必要性を認識しつつも、実施を断念しているのが現実であろう。
そこで今回は、大がかりな地域経済循環分析に取り組むことが難しい自治体が、限られた予算の中で優先的に実施すべき分析として、企業の取引関係を把握するための分析(アンケート調査による実態把握)を提案したい。地域内の企業の取引関係を把握することは、その地域の産業が地域外のどのような産業の需要に依存しているか(他地域のどの産業の好不況に影響を受けるのか)、また、地域内から部品やサービスが調達されているか(地域外に需要が流出していないか)を理解することであり、これによって、地域経済の外部環境変化への対応と地域内の経済循環の強化に向けた政策の検討が可能となる。
調査実施に当たってのポイントは以下のとおりである。
【調査対象の設定】
(1)地域の経済や雇用の面から重視すべき業種のみを対象とする。(調査対象の絞り込み)
【調査票の設計】
(2)主要製品の上位の出荷先(業種・地域・出荷額)、部品等の上位の調達先(地域・調達額)のみを把握する。(回答企業の負担を極力減らす)
【調査の実施方法】
(3)大規模事業所を中心に重点調査対象企業を設定し、調査票を訪問回収する。(出荷額ベースでの有効回答率の向上)
(4)商工会議所や組合等を通じて調査への協力を働きかける。
例えば、地域内の製造業を対象に企業間の取引関係を把握するアンケートを実施することで、回答企業を大きく以下の3種類(1~3)に分類することができる。
- 製品のほとんどを地域外に移出する大規模事業所(大企業)
- 地域内と地域外の両方に製品を出荷する中規模事業所(中堅企業)
- 製品のほとんどを地域内に出荷する小規模事業所(中小企業)
さらに、アンケートの分析結果より、Aに属する大企業が他地域のどの業種と結びつき、地域外の需要を地域内に取り込む役割を果たしているか、また、B、Cに属する企業の中でも、直接、地域外の需要を獲得している企業はどこかなどが把握できる。こうした分析結果を踏まえて、着目すべき企業を特定し、詳細なヒアリング等を実施してもよい。
企業の取引関係を尋ねる調査は、通常のアンケートと比べて回答が難しく、大企業では事業所単位での取引関係が集計されていないことがあるなど、実査には様々な制約があることも事実であるが、定期的な実態把握の取組の上に、自治体の産業政策担当者がもつ幅広い企業情報を重ねることで、より説得力のある政策立案が可能となると考えられる。
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