国土交通省成長戦略にみる「縦割り」の弊害打破

2010/05/31 原田 昌彦
輸送
港湾

4月13日、国土交通省成長戦略会議の重点項目が公表された。成長戦略の必要性と基本戦略、推進方法が記載された総論と、海洋、観光、航空、国際展開・官民連携、住宅・都市の5分野別の各論から構成されているが、全体としてメリハリの利いた、メッセージの明確なものと言えよう。
総論部分では、まず、人口減少・少子高齢化やアジア諸国の高成長を踏まえた日本経済の成長戦略の必要性が示されている。次いで、「公共投資への依存度が高く、様々な規制に守られた内向きな産業構造」から脱却し、「民間の知恵と資金を最大限に活用して生産性の向上を図ることによりパイを拡大させていく」ため、「ばらまき行政・再配分政策からの脱却を図り、限られた公共投資を費用対効果に応じて集中的に配分することを基本」とし、「成長の足枷となっている規制緩和に積極的に」取り組むなどとする基本戦略が示されている。推進方法としては、「PDCAサイクルと戦略的な工程管理」「強いリーダーシップによる継続的な取り組み」の2点があげられている。
公共投資の重点化や規制緩和が強調されている点は、一見すると自民党・小泉政権のものかと疑いたくなるが、民主党の「政権政策Manifesto2009」(以下「マニフェスト」)には、そもそも成長戦略として「家計の可処分所得を増やし、消費を拡大」する以上のことがほとんど書かれていないため、とりあえず「マニフェスト」との矛盾はないようである。
各論部分では、「海洋分野」をとりあげてみよう。同分野は「港湾力の発揮」「海運力の発揮」「造船力の強化並びに海洋分野への展開」の3項目からなり、このうち「港湾力の発揮」は、コンテナ港湾の選択と集中、バルク港湾の選択と集中、アジアのクルーズ需要の取り込みの3点が柱となっている。
コンテナ港湾の選択と集中については、国際コンテナ戦略港湾を1~2港へ絞り込むことへ関心が集まっているが、もう1点、「内航フィーダーの充実に向けた暫定措置事業の改善等海運・トラック・鉄道によるフィーダー網の抜本的強化に向けた施策に取り組む」としていることが注目される。というのは、日本のコンテナ輸送において、いわゆる「ハブ機能」が韓国・釜山港等に流出している問題は、国内輸送も含めたトータルの輸送コストの高さが大きな要因であったにもかかわらず、これまでの港湾機能強化策は港湾行政の範囲内にほぼとどまっていたからである。今回の成長戦略において、海運・トラック・鉄道という全省横断的な取り組みが明記されたことは、民主党政権が掲げる「政治主導」の1つの成果と言えよう。今後の「戦略的な工程管理」や「強いリーダーシップによる継続的な取り組み」が期待される。
一方、今回の重点項目には、高速道路無料化に関する記載が一切ない。周知のとおり、自公政権末期に「休日普通車上限1000円」の料金割引制度が導入されたが、「高速道路無料化」を掲げる民主党中心の政権になった後、今年2月に高速道路無料化社会実験計画案が公表され、さらに4月には「普通車上限2000円」の新たな料金割引制度が発表された。めまぐるしい変更に、国民はもちろん、物流、観光といった関連業界は大いに混乱している。
「マニフェスト」では、高速道路無料化は「物流コスト・物価を引き下げ、地域と経済を活性化」するものと位置づけられているが、海運・鉄道が重要な物流手段となる地域では、それらが壊滅的な打撃を受け、地域経済の弱体化を招く恐れがある。海運・鉄道からトラックへのシフトは、「2020年までに温暖化ガスを25%削減」にも逆行し、旅客輸送面でも、鉄道・高速バスからマイカーへのシフトにより同様の問題が生じる。
高速道路料金政策についても、「全省横断的」な整合性ある戦略の早急な構築が望まれよう。

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