「安全」産業に注目

2010/06/22 長尾 尚訓
安全
産業

中国富裕層の人気商品

日本を訪れる中国人観光客が増えており、来日する中国富裕層をターゲットとしたビジネスが活発化している。街では中国語の案内看板を出す店が増えており、家電店、ブランド品の店が多いが、ドラッグストアで日本製の化粧品、薬品、医療品、日用品を買っていく観光客も多い。日本製の商品を購入する理由は様々であるが、日本製は品質が良くて「安全」であるという部分が評価されていることが大きな理由であろう。2008年に中国大手メーカーが有害物質のメラミンを混入したミルクを販売した事件が発生して以後、中国では日本メーカーの粉ミルクが大人気となっているが、これも日本製品の安全性が評価されたものである。

中国自動車の弱点

2009年に中国の自動車の生産台数と販売台数はいずれも1,350万台に達し、いよいよ米国を抜いて世界一になった。供給の中心は日系、ドイツ系などの外資合弁企業であり、今のところ国内メーカーは高いシェアを占めるには至っていない。ドイツの調査機関の調査によると、中国独資の自動車メーカーはアジア以外での販売は低調であり、欧州での販売シェアは1%に過ぎないとされている。この原因の1つとして安全性の問題が指摘されている。ドイツ自動車連盟が実施した衝突テストで、中国製の四輪駆動車が史上初の星ゼロ(最低評価)となったニュースが報道されたが、未だ安全性の面では日本製をはじめとする海外の自動車にはキャッチアップできていない。

国内の「安全」産業

安全性への要求は国内でも高まっている。食の他にも、防災、防犯、情報セキュリティ等の狭義の安全分野では、多くの商品・サービスが開発されており、市場が拡大している。例えば、新型インフルエンザの流行、大規模地震の発生などに伴い、BCP(事業継続計画)やBCM(事業継続マネジメント)の市場が拡大しており、2013年には1兆6,500億円の市場規模になるという予測もある。
さらに、人類の生存に関する「安全」への危機感が高まっている。地球環境問題、食糧、水の問題等が懸念されており、我が国でもグリーン家電普及促進事業、いわゆるエコカー減税など官民が連携した取組を行っている。先進国を中心として、人類の生存に係わる「安全」分野を対象として、新たな市場の創出が行われており、将来巨大な市場が誕生するとみられる。

ビジネスの成長ドライバー:「安全」

このように捉えると、今後のビジネスは「安全」という要素が成長のドライバーになる可能性がある。かつては我が国では安全はタダとされていたが、経済的に豊になったことから、安全に対するニーズが顕在化している。また、科学技術の進化によって安全に対する様々なニーズに応える製品、サービスを提供できるようになっている。今後の新規ビジネスを考える際に、「安全」という視点から既存製品を捉え直してみると、新規ビジネスが見えてくる可能性がある。

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