高齢者が安心して暮らせるための議論がはじまる

2010/09/15 河合 修治
高齢者
まちづくり

記録的な猛暑による高齢者の健康への影響や、所在の確認できない高齢者が各地で相次ぐなど、今夏は高齢者の暮らしに係る話題が報道で取り上げられる機会が多かったのではないだろうか。
我が国の高齢化は今後も進み、高齢者のみで暮らす世帯や認知症の高齢者の数が急増することが見込まれ(2005年から2025年にかけて、高齢者単身および夫婦のみの世帯数は約1.5倍、認知症高齢者数は約1.9倍となる見込み)、今後も高齢者の暮らしに係る新たな問題・課題が顕在化してくることが予想される。
国土交通省が実施したインターネットモニターアンケートでは、介護が必要になっても自宅での在宅介護を希望するとの回答が約6割を占めており、多くの国民が、住み慣れた地域で安心して高齢期の暮らしを送ることができる環境整備を求めていることがうかがえる。
本年5月に公表された国土交通省成長戦略の中でも、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活を続けるための環境整備として、医療・介護などのサービスと一体となった住宅の供給促進が求められており、その早期実現を目指すための対応策として「民間事業者等によるサービス付き高齢者賃貸住宅の法律上の位置づけ」の明確化や「公共賃貸住宅団地を地域の福祉拠点として再整備する」ことなどがあげられ、実現に向けて解決すべき課題として「厚生労働省との連携」の必要性などが指摘されている。
厚生労働省との連携に関しては、高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)が、改正に伴い国土交通省と厚生労働省の共管となるなどの整備が進められているが、成長戦略の内容はさらに一歩踏み込んだ内容となっており、今後、高齢者向け賃貸住宅制度(高優賃、高円賃、高専賃)を整理し、サービス付き高齢者賃貸住宅として制度化を図る方針であることなどが報じられている。
高齢者住まい法では、高齢者に対する賃貸住宅と老人ホームの供給目標・供給促進策、高齢者居宅生活支援体制確保策を示す高齢者居住安定確保計画の策定を都道府県に求めている。高齢者居住安定確保計画は、住宅部門、福祉部門それぞれに関連する施設の供給量などを盛り込む必要があり、群馬県や大阪府など一部で策定が進められているものの、住宅部門のマスタープランである住生活基本計画の見直し時期を控えるとともに、今後、第5期介護事業支援計画の検討が始まることから、多くの自治体ではそれらの検討時期にあわせて策定作業が進められていくものと考えられる。
現在、国土交通省では、住生活基本計画の全国計画の見直し作業を進めており、厚生労働省でも、介護保険制度の改革に向けた論点が示されるなど、その見直しに向けた議論が始まっている。高齢者住まい法で示されているように、高齢者が住み慣れた地域に安心して住み続けるためには、住宅政策と福祉政策を車の両輪として一体的に進めることが必要であり、検討成果がそれぞれの政策や制度にどのように落とし込まれ、地域へと反映されていくかが注目される。
厳しい財政状況の中で、必要となる財源をどこまで確保できるかといった課題や、NPOなどの「新たな公共」をどのように活用していくかといった課題もあるが、急激に進む高齢社会への対応策としてどのような方向性が示されるか、今後の議論に注目していきたい。

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