世界レベルで進展する研究開発拠点の集約

2010/09/27 上野 裕子
グローバルビジネス
経営戦略

~待ったなし日本の戦略的「集中」投資~

ナノテクノロジー、マイクロテクノロジーは、半導体に代表される電子部品に加えて、材料、バイオ、医療など幅広い産業分野に応用が可能な技術として、世界的に激しい研究開発競争が繰り広げられている技術である。しかし、最先端の装置の価格が1台数億円~数十億円と高額であり、クリーンルームなども必要で、多額の研究開発費がかかる。そのため、近年、世界的な大企業でさえも最先端の研究開発活動を、環境の整った共用の研究開発拠点に集約しつつある。こうした動きを受け、従前からの世界レベルの研究開発拠点に加え、新たに最先端の頭脳の集約の受け皿となるべく大規模な拠点整備が欧米やアジアで進行している。日本は、高い研究開発水準を有しながらも、研究開発拠点整備においては諸外国の後塵を拝しているため、諸外国にとって恰好の誘致ターゲットであり、最先端の頭脳が海外へ流出している状態となっている。世界の”知”を日本に誘致できる魅力的な研究開発環境の整備が今、待ったなしで求められている状況にある。

現在、ナノテクノロジー、マイクロテクノロジー関連で、世界で2トップと評価されている共用研究開発拠点は、ベルギーの「IMEC(アイメック)」と米国ニューヨーク州立大学アルバニー校の「CNSE Albany(注1)」である。また、これらを追ってフランスでは、「MINATEC(ミナテック)」が整備されており、アジアでは、シンガポールが「Fusionopolis(フュージョノポリス)」を整備中である。

世界レベルで進展する研究開発拠点の集約

諸外国の共用研究開発拠点は、8,000m2級の大規模なクリーンルームを備え、研究開発から試作・加工、計測・評価まで を一貫して行うことができるラインを複数、整備している。また、単に設備が整っているにとどまらず、試作・加工や計測・評価等を請け負うオペレーターや設 備機器のメンテナンスを行うエンジニアを毎日24時間交代制で勤務させ、企業の開発業務を常時支えている。これにより、企業は、開発費用と開発時間を低減し、開発プロセスを効率化して競争優位性を高めることができる。
さらに、諸外国の共用研究開発拠点は、研究開発施設を擁するだけにとどまらず、そこに世界各地から研究者とその家族が心地よく滞在し、研究者同士が交流し合う中からもイノベーションが創出されることを狙い、第一級のホテル・レストランや緑豊かな空間を併設するなどしている。
例えば、IMECは、緑豊かな空間に複数の建物が渡り廊下で接続されて配置されており、敷地内に住居も整備されている。Fusionopolis も、建物内にサービス付きのアパートがある他、5つ星ホテル(16室)が入居している。また、低層階はショッピング街となっており、複数のレストランや喫茶店、スーパーマーケットや書店等の小売店が入居している。
諸外国の共用研究開発拠点は、さらに、単なるハコモノではなく、海外の企業や研究機関・大学が研究開発拠点内で単独もしくは自国の企業・大学等と共同で研究開発を行うことを積極的に促進しており、そのための研究開発拠点の国内外でのPR・プロモートや共同研究プロジェクトの企画コーディネートに相当の力を注いでいる。
例えば、CNSE Albany は、日本を中心としたアジア太平洋の企業による施設利用を促進する専任の担当者を置いている。IMEC は日本に事務所があり、MINATEC も州政府が日本に事務所を置いており、プロモーションをおこなっている。Fusionopolis は、政府職員が、海外企業に自発的に接触し、自国企業との共同研究を企画コーディネートしている。

近年、これら世界レベルの大規模な共用の研究開発拠点に、日本企業を含む世界中の大手企業が個別にあるいはグループを組んで研究開発部隊を集結させている。日本には、同水準の共用研究開発拠点が乏しいことから、日本企業の頭脳は現状世界に流出している状況にある。イノベーションの源泉である研究開発機能を日本に定着させ、また世界中から最先端の研究開発機能を日本に誘致し、研究交流の中からさらなるイノベーション創出を促進するためには、日本においても、大規模投資を進めている諸外国に拮抗できるレベルの研究開発環境の整備を行うことが喫緊の課題である。

※海外の研究開発拠点への訪問インタビュー調査は、(財)JKAからの競輪の補助金を受けた(社)日本機械工業連合会からの委託調査(http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/pdf/2010/21sentan_09.pdf)の一環で実施したものである。


(注1)CNSE Albanyの正式名称は、「College of Nanoscale Science and Engineering (CNSE),
State University of New York at Albany(ニューヨーク州立大学アルバニー校)」である。

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