難しいコミュニティバスの維持確保
少子高齢化・人口減少の進展に伴い、移動制約者の高齢者が増加することで、地域公共交通に対するニーズが高まり、自治体主導のコミュニティバスの導入が進んでいる。
表面的な動きとしては、自治体のガンバリにより、住民の生活の足が守られている感があるが、実態としては、大きな問題を抱えており、その維持確保は非常に危うい。
維持確保が難しい環境変化
平成14年の道路運送法の改正以降、乗合バス事業における需給調整規制が廃止され、民間バス事業者の新規参入と廃止退出が自由化された。以降、人口が増加していれば、潜在利用者が拡大する中で、新規参入によるサービス向上が見込まれたが、実態としては、少子高齢化・人口減少が進行した。民間バス事業者の収益基盤は、通勤・通学の定期利用者であるため、大都市圏を除き、これら生産年齢人口は既に減少しており、儲からない赤字路線が拡大し、廃止退出路線が急増している。
民間の路線バスの廃止に対して、廃止路線の沿線に居住している住民から、地元自治体に対する代替措置要望が噴出し、結果的に、コミュニティバスの運行が拡大した。
民間のバス事業者がやめてしまったエリアのコミュニティバスが黒字化することは奇跡的なことで、国土交通省中部運輸局管内の自治体で取り組まれているコミュニティバスの事業収支率は3割を切っている。運賃収入は僅か3割程度で、7割分は税金投入して維持している。このまま、自治体は税金投入し続けるのか?
地域公共交通を維持するために
税金を投入し続けながら地域公共交通を維持していくには、行政の説明責任が問われる。
先行的な取り組みである富山県富山市の「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」では、中心市街地の空洞化対策としてまちなか居住(コンパクトシティ化)を推進しながら、地域公共交通の維持確保を連動させて行っている。また、愛知県東海市では総合計画の施策評価指標の一つに「病院に行くのにかかる時間」をアウトカム指標として設定し、医療・福祉施策と交通施策を連動した施策評価を行っている。
これまで地域公共交通の事業評価は、利用者数の推移や事業収支率といったサービス供給側の立場での評価が中心で、利用者の立場に立った評価はほとんど行われていない。
現在制定に向けて検討が進められている「交通基本法」の中では、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動を保障される権利を有する」という移動権保障の考えが盛り込まれている。
交通基本法の移動権保障は、利用者目線での地域公共交通の確保を目指していると考えられ、先に示した事例では、そうした考えの中で、医療・福祉施策、都市・まちづくり施策等と連動させながら、地域公共交通施策を自治体の最上位計画である「総合計画」に位置付け、施策の継続性を担保している。
今後は、地域公共交通施策を単体として捉えて事業評価を行うと、赤字事業だとする厳しい評価がなされるが、他の施策とセットで考えた施策展開が重要である。加えて、自治体の行政界全てのエリアを対象に、地域公共交通への税金投入を均一に行うのは合理的ではなく、例えば潜在利用者の分布状況や、バス停を設置する対象施設の配置状況や利用規模に応じて、傾斜配分した税金投入を行うなどの制度設計も重要である。
創意工夫しながら上手く取り組んでいる自治体もあれば、全く対応できていない自治体があるなど、そこには差が生じている。住民の居住地選択により、環境の整った自治体選択が進めば、自ずと自治体の取り組み内容は向上する。自治体の力量が問われているというのは間違いない。
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