基本構想策定義務の廃止後の自治体経営のあり方

2010/10/22 島崎 耕一
社会政策

基本構想の策定義務(地方自治法第2条第4項)の廃止が検討されている。市町村は、今後も基本構想を策定するのかどうかの判断を迫られることとなるが、「ビジョン」は物事を達成するために不可欠な経営ツールであることから、何らかのかたちで策定を継続する自治体が多いと思われる。ポイントは「どのような目的」で「どのようなビジョン」を「どのように作るか」である。自らの意思により策定するものであるので、形式的なものでなく、より実質的なものとしていくことが不可欠である。
まずは、市政における位置づけを規定しなくてはならない。自治基本条例等において規定をもたない自治体は、条例の制定や改定が必要となろう。議会の議決事項とするのかについても協議が必要となる。そのコンセプトについても、従来のように「行政として実現をめざすビジョン」とするのか、「市民・事業者・行政が連携・協力して実現をめざすビジョン」とするのかといったように、ビジョンのあり方の可能性(選択肢)がぐっと広がる。わがまちにおいて、(1)どのような「ローカルガバナンス」を構築していくのか、(2)そのために必要なビジョンとは何か、(3)それをどのようなプロセスで策定するのか、の3点について、ビジョンの策定作業開始までにしっかりと詰める必要がある。
仮に「市民・事業者・行政が連携・協力して実現をめざすビジョン」とする場合には、ビジョンの実現に向けた活動プロセスも、行政内部で閉じたものではなく、より開かれたものとしていく必要がある。目標と制約条件を明らかにしたうえで、現場に委ねる部分を大きくしないと「協働の現場」は動かない。一方、トップがいつでも現場の状況を確認できるように、現場はリアルタイムで情報を発信(入力)する必要がある。予算編成、目標管理、行政評価、庁内会議、外部委託など、既存の様々な仕組みがこのままで良いのかどうかを全体最適の視点から点検する必要がある。例えば、1年以上経っても評価結果が公表されていない行政評価システムは問題を有している。PDCAサイクルがもっと短時間でぐるぐると廻るように、仕組みをシンプルに再構築する時期がきている。また、評価(CHECK)のプロセスでは、活動の善し悪しの評価にとどまらず、ビジョンの実現に向けた仮説(ストーリー、ロジック)の検証・修正(見直し)に力点を置くことが重要である。
基本構想策定の義務付け廃止は、市政やまちづくりの仕組みを根本から見直すチャンスである。現構想の計画期間の終了年度間近となってばたばたと慌てるのではなく、まちづくりを担う多様な主体と「ローカルガバナンス」の姿についてじっくりと検討・共有する場をどのようにつくっていくのかについて、早速検討にとりかかることが求められる。そして、地域の知恵を結集したビジョンとそれを動かす独自の工夫・仕組みが、次々と全国各地で生まれ、地域の活性化につながることが大いに期待される。

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