ノン・プロ法人の証券運用に現れる警告シグナル

2011/03/22 奥田 亘
金融

20年にわたる低金利時代の影響から、「大口資金の安全運用」によって得られる金利収入は大幅に低下している。下のグラフは、10年物の新発利付国債を毎月均等額購入して満期保有するような単純な運用手法を想定し、各年度の平均利回りを試算したものであるが、2009年度の金利収入が1996年度の金利収入に対して3割未満まで落ち込んでいたであろう可能性を示している。

各年度の平均利回り(当社作成)

現実には、この間に(時には上からの、前年度実績からの収益低下を責める圧力に負けて)運用担当者が実行した「対策」の効果によって、利回りの低下幅がもう少し抑制されているケースも多いだろうが、問題はその「対策」の中身である。経営責任者は、例えば「運用の高度化によって市場金利の低下を補った」というような説明をそのまま鵜呑みにしてしまってはいけない。
我々が見聞している限り、この間実施されたとみられる「対策」は例えば下記のように整理できるが、これらの対策のそれぞれが「計算上の運用収益」と「リスクも考慮に入れた真の運用実態」との乖離を招いてしまっている。

「対策」(当社作成)

リスクを正しく計量化することが困難な「ノン・プロ」投資家の場合、経営責任者がこの乖離を一部なりとも認識する数少ない機会が、会社計算規則等で求められる「有価証券の強制評価減(減損)」である。
市場動向をみる限り、今期末を含むここ3年程の内に保有有価証券について強制評価減の実施を検討したことのある法人は、その損失額の大小にかかわらず要注意である。まだまだ損失が出尽くしたとは限らないばかりか、運用体制に関して重大な欠陥を抱えている可能性が大きいからだ。経営責任者はこれを警告として受け止め、運用担当者の報告内容のみに頼らず、運用実態を再点検する必要がある。もちろん、これまで強制評価減の経験がないという事実だけでは、有価証券運用が経営上の意思に従って有効に運営されているという保証には全くならない点は強調しておきたい。

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