エネルギー需給の現状と見通し
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故発生により、原子力発電へのシフトを進めていた電源政策は中長期な見直しが必至となっている。原子力発電は、二酸化炭素排出が少なく、経済効率に優れていることから、我が国では原子力発電が今後の電源構成の中心となると考えられていた。資源エネルギー庁の見通しによると、2020年には原子力発電は4,345億kWhの発電量を見通している。これだけの大規模な発電量を確保するためには、従来の石油、石炭、LNG、水力に加えて、新エネルギーの利用が不可欠と考えられる。具体的には地球温暖化防止の観点から、化石燃料を使わない地熱発電、風力発電、バイオマス発電、太陽エネルギー発電、波力発電など再生可能エネルギーが期待される。しかし、いずれの発電システムも商用化するには大きな課題を抱えており、中長期的なスパンで取り組んでいく必要があろう。
宇宙太陽光発電システム
再生可能エネルギー源で、原子力発電に相当する大規模な発電の可能性をもつ将来発電システムとして、宇宙太陽光発電システムがある。宇宙太陽光発電システムは、地球の衛星軌道上に設置した施設で太陽エネルギーを使って発電し、マイクロ波等で地上に送電するシステムで、2.5km四方の送電パネルを使用すれば100万kw級の大規模発電が可能とされている。地上とは異なり天候に左右されず安定的に発電できるという特徴がある。我が国は長年研究を続けてきており、研究レベルは世界をリードしている。2009年の宇宙基本計画でも、今後推進する4つの研究開発プログラムの1つに位置づけられており、軌道上での実証を目標として研究が進められている。
宇宙エレベータ
宇宙太陽光発電システムを実現するためには、宇宙空間に発電施設を整備するコストが高いことが大きな課題となっている。2.5km四方の送電パネルを宇宙に設置するためには、ロケットを何度も打ち上げる必要があり、運用段階での維持も考慮すると、現在のロケットではコストが膨大となる。その問題を抜本的に解決しうる方法として、宇宙エレベータがある。これは静止軌道にステーションを設置し、そこと地上をケーブルで接続して、エレベータで宇宙まで上がるというものである。かつてはケーブルに必要な強度をもつ素材がなかったが、近年カーボンナノチューブなどの素材が生まれており、実現の可能性が高まっている。
次世代発電システムへの期待
宇宙太陽光発電システム、宇宙エレベータはともに実現までには多くの課題を解決する必要があり、長い時間と膨大な研究開発費が必要となる。しかしながら、原子力発電システムに代わる次世代の大規模発電システムとしてのポテンシャルを秘めており、この震災を契機として、我が国がリーダーシップを発揮して、実現を目指すことが期待される。
東日本大震災では世界中の多くの国から多大な支援を受けた。原子力発電システムに代わる次世代発電システムの確立は世界の共通課題であり、我が国がリーダーシップを発揮して宇宙太陽光発電システムを確立することができれば、世界に恩返しできる。東日本大震災の復興では、発電システムについては次世代型を創出することが求められている。次世代発電システムとして、宇宙太陽光発電システムと宇宙エレベータの開発を検討すべきと考える。
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