持続的発展を遂げる企業の経営戦略とは(1)

2011/08/24 齋藤 禎
経営戦略
事業戦略

国内外の優良企業、長寿企業の経営戦略に関する書籍や研究は多いが、これまでなかなかしっくりこなかった。企業取材で数多くの魅力的な経営者にお会いするとともに、実家も零細な事業を続けており、企業寿命が短命化する中で、長期間にわたり収益を上げ、事業を継続・発展させることの凄みを感じているが、その真髄を掴みきることは非常に難しい。
企業はなぜ発展を続け、その競争優位の源は何なのか。事業環境の変化への対応力か、経営資源か、戦略・ビジネスモデルか。ビジネスモデル等の言葉を使うと思考停止に陥ってしまうので、持続的成長を遂げる企業の経営戦略とはこうしたものではないかということを、まずは思いつくままに挙げてみた。

持続的発展を遂げる企業の経営戦略イメージ

  • 短期志向ではなく、中長期志向(言うは易しだが、最も難しい)。
  • 熱意や信念、非合理性なことをも論理に取り込む力。
  • 自らのルーツへの誇りをもとにした一体感。
  • 事業性と社会性・公益性の絶妙なバランス。
  • 企業価値を高めるための無形資産(ノウハウ、知的財産、ブランド、人材、組織改変力、集合知(注1)等)の重視。
  • 偶然の幸運を引き寄せる組織的な能力(偶然を偶然としてやり過ごさず、必然的に取り込む組織的な仕組み等)
  • 環境変化、突発事象への対応力・柔軟性 /等

以上、持続的発展を遂げる企業の共通項を挙げてみたが、改めて眺めると物足りなくなる。共通項を探るのは、ありがちなパターンだが、その手法をとると何か大切なものをそぎ落としてしまったと感じるのである。
これに対し、2008年から一橋大学の楠木教授が雑誌で連載されてきた企業の競争戦略に関する洞察には、持続的発展を遂げる企業の経営戦略を読み解くための救いの光があると感じている(注2)。楠木教授は、企業の真の競争戦略を「動画」とみたて、一見、それぞれは地味な戦略が共鳴し、組合せの妙としてボディーブローのように効いてくることを示している。また、優良企業の競合他社が、根幹に流れる「ストーリー」を理解せずに、一見非合理に見える打ち手を取らず、部分的に戦略を真似ようとすればするほど、自社の戦略との折り合いがつかなくなり、勝手に自滅に向かっていく論理も丁寧に説明されている(注3)
神戸大学の小川教授は、「動体視力」と称していたが(注4)、身の回りにあふれる断片的でもっともらしい情報に惑わされず、こうしたストーリー自体を構築できる能力こそ、持続的な発展を遂げる企業の経営戦略の要である。
その際、ストーリーの練り上げる主体が最も重要である。こうしたストーリーは突出したカリスマ経営者等が持つもので属人的かつトップダウンの要素が強いようにも感じるが、複雑・多様化した競争環境の変化の中で、カリスマ経営者の待望論は、むしろ牧歌的かつ危険ともいえる。昨今もカリスマ経営者が業績を立て直した成功物語が好んで語られるが、それが少なく、我々が欲するがゆえに生み出される、まさに現代の物語である。
むしろ、持続発展を遂げる企業の経営戦略としては、自立した個が、地下茎のように張り巡らした(すなわち、形式的な組織や表面上の組織体ではない)社内外の経営資源のネットワークを最大限に活用しながら「自己組織的なチーム」を柔軟に組成し、経営戦略のストーリーをつくり上げていくことが一層求められるのではないだろうか。ありがちな個人対組織のような単純な図式ではない、変革期の今、「第三の形態」についてあらゆる可能性を探ることが重要である。

(注1)静岡大学の佐藤先生の予測市場、集合知に関する研究成果や取り組みが参考になる。
(注2)楠木健(2010)『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件』、東洋経済新報社.2008年から一橋ビジネスレビューに連載された記事をもとに、昨年、書籍としてまとめられた。競争戦略のストーリーの「コンセプト」や「クリティカルコア」の理解等が肝となるが、紙面が限られていることに加え、具体的でわかりやすい企業事例も豊富ゆえ、詳細は同書をご参照のこと。
(注3)楠木教授は、「自滅の論理」と称しているが、競争を防ぐには、模倣の障壁となる「防衛の論理」に加え、他社が勝手に自滅する仕組みを編み出すことの重要性を指摘している。
(注4)「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 楠木建著 ~たっぷり、丁寧に未来を創り出す戦略論」、東洋経済新報社 書評ウエブページ2010/06/07。評者は、神戸大学大学院経営学研究科小川進教授。

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