国際的な議論
京都議定書において規定された市場メカニズムのひとつとしてクリーン開発メカニズム(CDM)がある。これは先進国が途上国において温室効果ガスの排出量削減等につながる事業を行い、削減量の一部を「クレジット」として先進国の排出削減目標の達成に用いる仕組みである。CDMはこれまでに途上国への一定水準の技術移転に貢献し、排出削減に寄与してきた。一方で、CDMは事業実施地域の偏り(注1)、使用される技術の偏重(注2)、審査期間の長期化(注3)などが課題として指摘されている。
こうした状況の中、日本政府は上記のCDMの制度的な限界を踏まえ、2010年から二国間オフセット・クレジット制度(BOCM)と呼ばれる新しい市場メカニズムの検討を進めている。2011年末に南アフリカにおいて開催されるCOP17では、新たな市場メカニズム創設に向けた検討が行われる予定であり、本制度の議論の発展が期待される。
二国間オフセット・クレジット制度(BOCM)の現状
BOCMは、地球全体の排出削減を促進し設定された削減目標の達成に貢献すると同時に、地球温暖化対策の分野において、それぞれの国情に応じた柔軟な二国間協力を推進する仕組みと位置づけることができる。このような仕組みは途上国の持続開発な開発に貢献すると同時に、日本の優れた技術・製品・システム・インフラ等の普及を促進することから、日本の経済活性化も同時に達成可能な制度とされている。
本制度を推進するために、日本政府は経済産業省、環境省が中心となり、制度設計、実現可能性調査、情報提供・普及促進、人材育成支援等を積極的に進めている。とりわけ実現可能性調査は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や公益財団法人地球環境センター(GEC)が窓口となり既に数多くの案件が採択されている。例えばGECにおいては、昨年度における採択件数3件から、今年度は29件と大幅に採択件数を増加している。NEDOにおいても1次公募で26件を採択し、2011年9月現在2次公募の採択案件の選定中である。
今後多くの調査や検討の結果を踏まえ、日本政府として世界的に発信していくBOCMの全体像が明らかになると考えられる。
今後の動向
国際交渉における本制度の推進を目指し、日本政府は2011年2月に国連に意見提出を行い、インド、ベトナム等の国々とも協力強化や制度構築の協議をすべく首脳レベルで合意しており、BOCM実現のために国内外での取組を進めている。
今後は、数多くの国々がそれぞれの国益を踏まえ交渉を行うCOP17等の国際会議において、本制度を認知させ実施可能なものにする必要がある。また、一旦本制度が認められた後には、実行可能な制度とするための制度設計が必要となる。このようにBOCMの実現化には今後もいくつかのハードルが存在するが、日本企業の得意とする技術を普及し、全世界的な排出削減に貢献するためのプラットフォームとして、本制度の早期の構築が望まれる。
(注1)中国、インド、ブラジルにおいて実施される案件数が全体の約7割を占める。(出所:UNFCCC)
(注2)登録件数ベースでは、風力発電、水力発電などの再生可能エネルギーや、埋立処分場等から回収したメタンガスを利用する事業が多い。予想排出削減量ベースでは、HFCやN2Oなどの排出削減量が大きくなる工業ガス系の事業が多くなっている。(出所:UNFCCC)
(注3)地球環境戦略研究機関のCDMプロジェクトデータベースやCDMモニタリング・発行データベース等から集計すると、CDMの手続き開始から最初のクレジット発行までに要する期間は、平均で3年近くとなっている。
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