平成23年3月11日に発生した東日本大震災による甚大な被害は、道路、港湾、空港、上下水道施設、庁舎、廃棄物処理施設、学校等、多くの公共施設にも及んでいる。被害額は、内閣府推計で総額16兆9千億円とされ、そのうち、いわゆる公共施設と呼ばれる分野の被害額は、約3兆3千億円とされている。
また、それに対する復興事業費も内閣府では、平成27年度末までの5年間に実施が見込まれる施策・事業の事業規模について、国・地方あわせて少なくとも19兆円程度としており、うち約9兆円が「復興に向けた事業に係る規模」と見込まれている。
しかし、財政規模(平成23年度一般会計)は岩手・宮城・福島の3県と仙台の1市(以下「3県1市」という。)を合計しても約2兆5千億円であり、被害額や復興に係る事業規模と財政力がバランスしないことは明らかである。
こうして震災に伴う被害額、事業規模等が明らかになる中、震災後まもなく各種団体や機関から、財政的に困難な状況を解決する1つの方法として「震災復興にPFIなど民間資金の積極的な活用を」といった提言・報道などが相次いで行われた(主な下表参照)。また、8月に政府公表の「復興の基本方針」にもPPP/PFIの活用による復興促進が明記されている。
<PPP/PFI活用が記されている各種提言の一例>
提言団体・機関 | タイトル | 公表時期 |
---|---|---|
日本PFI/PPP協会 | 東北地方太平洋沖地震・津波災害復興に係るPFI方式活用の提言 | 平成23年3月18日 |
東日本大震災津波災害に関わるがれき早期処理方法及び資金調達 | 平成23年4月6日 | |
日本経済団体連合会 | 震災復興に向けた緊急提言 | 平成23年3月31日 |
東洋大学 | 復興のための第一次提案 | 平成23年4月18日 |
土木学会 | 東日本大震災の復旧・復興に向けたPFI/PPPの活用に関する提言 | 平成23年5月11日 |
しかし、震災から半年以上経過した現時点においてもPFIによる具体的な復興事業が1件も出て来ていない状況である。過日公表された3県1市の「復興計画」や「復興ビジョン」でもPPP/PFI導入に関して、一部を除きほとんどの自治体では触れられていないのが現状である。
未だ震災復興にPFIが適用されない理由としては、様々な課題があるがその主な事項は次のとおりである。
復興事業にPFIが具体化しない主な課題
(1)人的課題
- 多くの被災自治体で絶対的な人手不足の状況であり、PFI事業を進めるための体制が組成できない。また、基本的にPFIの知識を有する職員が少なく、ノウハウもない。
- PFIは、通常の公共発注と異なる手続に基づき進められるため、多くの手間と時間を要する。非常事態にある状況下で不慣れな行政手続きの採用は、現場として負担が大きく、抵抗感が強い。
(2)時間的課題
- PFIには、公募準備及び公募・選定のプロセスにおいて、通常1年から2年の期間を要するという手続上の課題がある。そのため、早期復旧・回復が求められる事業には不適である。
(3)制度的課題
- 復旧・復興事業に係る費用の多くが、国から補助・支援で賄うことができると見込まれるため、敢えて民間資金を活用する余地がほとんどなく、PFIを導入しても当該自治体として財政的なメリットが発生しない。
これら課題の他に復興計画そのものがまだ具体化していないという点もあるが、現実的には被災自治体にとって復興事業にPFIを導入するインセンティブが働きにくい構造になっている。つまり、PFI/PPPを積極的に活用すべきという声と、復興事業をとりまく仕組みや環境が整合していない。まさに、かけ声だけが先行しているといえ、提言側と現場との距離感があると言わざるを得ない。
このままでは震災復興にPFIはほとんど活用されないと思われる。そのため、上記課題の解決策として、次のような対応が望まれる。
復興事業にPFIを導入するための対応案
(1)人的課題への対応
- 県をはじめとした他自治体の行政職員や、PFIのノウハウのある民間企業から人材を期間限定で派遣する。
(2)時間的課題への対応
- 復興計画が具体的になった時点で、PFIとして適性の高い事業を選定し導入する。また、パイロットプロジェクトを定め、先行してPFIを導入し、ノウハウを他の自治体に還元し時間の短縮を図る方法もある。
(3)制度的課題への対応
- 復興事業への適用に限定したPFI導入の為の財政的な支援措置を導入する。例えば、PFIアドバイザー業務委託費の補助、(1)の民間人材の受入費用の補助 等。
PFIはあくまでも事業手法の1つであり、適性の低い事業に、無理に導入する必要はないが、復興事業の中には、分野によってPFIの適性の高い事業があると考えられる。そうした事業にPFIを活用するためには、現場の実情を把握し、その実態に則した方策をとることが必要である。
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