東日本大震災の被災地では、復興に向けた計画づくりが進められている。その中で、筆者は気仙沼市(宮城県)の震災復興計画の策定に関わる機会を得た(注1)。被災地の市民の皆さんや行政職員の方々と接する中で、日ごろのおつきあいや顔見知り関係などの「地域の絆」が、困難に直面した時にいかに大切であるかを改めて認識した。
都市部に目を向けると、都心回帰によりマンション建設が進み、新旧住民の交流が課題となっている。また、単身世帯の増加、ライフスタイルの多様化などにより、地域活動に関心を持たない層、活動に参加しない層が増えるなど、”コミュニティの希薄化”が進んでいる。大規模災害の時には行政機能が一時的に大きく低下する。その時に、それぞれの地域が立ち上がり、一定の役割を果たせるような状況を一刻も早く整えておくことが望まれる。防災は誰もが重要性を共有できるテーマである。地域団体や行政、事業所、学校など多様な主体を巻き込み、避難所開設訓練や夜間宿泊訓練、要援護者の避難計画づくりなど、地域の総力を上げた取組を行う意欲的な地域も見られるようになってきている。
このような状況のもと、「地域の絆」を取り戻すための仕組みとして注目されるのが、主に小学校区を地域単位とする「地域自治組織」の活動である。地域には自治会・町内会をはじめ、社会福祉協議会、青少年団体など様々な団体が分野毎の縦割りで設置されていることが多い。これらの組織を横断的につなぐプラットフォーム的な組織が、本稿でいう「地域自治組織」である(注2)。地域に関わる団体がより一層結束力を高めることで、活動内容や広報活動の充実、担い手の確保などにつながり、”地域の絆”を強めていくことが期待される。関西では、宝塚市、神戸市、名張市、枚方市などが早くから取り組んできていたが、近年、豊中市、八尾市、大阪市においても取組が進みつつあり、筆者もいくつかの地域で関わっている。
以下に、「地域自治組織」の取組を上手く進めていくためのポイントを示す。
「地域自治組織」の位置づけを明確に、されど権限は抑え目に
助成金など公の資金の活用が想定されることから、地域自治組織の位置づけについては、条例で明確にしておくことが求められる。また、地域自治組織の制度設計の際、「どのような権限をもたせるか」ということが重要な論点となる。既に様々な地域活動が活発に展開されている地域においては、屋上屋を重ねることにならないよう位置づけ・役割を工夫する必要がある。地域活動は住民のボランティアにより成り立っていることから、参加者や各団体は基本的に水平関係にあるため、「地域自治組織」に大きな権限をもたせても、かえって担い手の負担が重くなり、役員の引き受け手が確保できなくなる恐れもある。各団体の連絡組織的な緩やかなネットワーク組織として、まずは活動をスタートさせ、徐々に仕組みを見直していく姿勢が望まれる。
「小さな成果」をできるだけ早く生み出す
様々な団体が活発に活動している地域においては、「地域自治組織は屋上屋ではないか」という批判に常にさらされる。横断的なネットワーク組織ならではの活動を行い、小さくても良いので、目にみえるかたちで「実績」「成果」をできるだけ早くつくり、住民に広く情報発信していくことが重要である。実績を積み重ねていくことで、地域自治組織の役割や設置効果についての認識が住民に徐々に広がり、活動への参加・協力が広がっていくことが期待される。
地域との対話を行う「行政の窓口」をしっかりとつくる
地域自治組織には、地域に関わる様々な団体が参加していることから、地域において多様な意見の把握や意見集約がしやすくなる。それと歩調を併せて、行政においても縦割りで対応するのではなく、ワンストップで一定の対応ができる窓口となる職員の配置が求められる。あわせて、その窓口となる職員をバックアップする庁内体制の構築も必要である。八尾市(大阪府)では、「コミュニティ推進スタッフ」を配置し、地域とのコミュニケーションや情報共有で大きな役割を果たしている。
第三者としての専門家の活用
地域と行政との対話と協働を活発にしていくことが基本であるが、地域が抱える様々な問題を解決していくにあたっては、住民、行政といった当事者だけでは議論が行き詰まることも多々ある。そのような時に役に立つのが”第三者としての専門家”である。住民・行政双方の認識を解きほぐして伝える”通訳”の役割を果たしたり、住民・行政の双方の意向を踏まえた新たな選択肢の提示など果たせる役割は多い。地域での検討の進捗にあわせて、適切な専門家をタイムリーに地域に派遣できるような仕組みをもっておくとよい。
[参考]地域自治組織の事例
設立済みの地域 |
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設立準備段階の地域 |
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(注1)気仙沼市震災復興計画策定の支援の経緯については、当社プレスリリースをご参照。
(注2)地域自治組織について統一的な定義はなく、各自治体がそれぞれ条例、要綱等により定めている。
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