厚生年金基金の資産運用に関しては「受託者責任ガイドライン」という文書が存在し、「管理運用業務を執行する理事(理事長、管理運用業務を行う常務理事及び運用執行理事等。以下「理事長等」という。)は、管理運用業務に精通している者が、通常用いるであろう程度の注意を払って業務を執行しなければならない。(厚生労働省報道発表資料『厚生年金基金の資産運用に係る受託者責任ガイドライン研究会報告書」について』別紙2『「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」の概要』より)」と記述されている。AIJ投資顧問による年金資産消失問題が発覚するより前の段階で、金融庁及び監視委員会の情報受付窓口に対して同社の運用実績の不自然さを指摘する情報提供があった(2005年度以降4件)とする報道をみると、「精通している者が、通常用いるであろう程度の注意を払って」いたならば虚偽の情報開示が見抜けたのではないか、という疑問が生じるのは当然であり、今後の検証を待つことになるだろう。事件の発覚後に同社の「エイム・ミレニアム・ファンド」の運用実績を時系列でグラフ化したものを初めてみたが、その安定性は一見しただけでいかにも異常なものであり、充分予見が可能であったとするコンサルタントもあるだろう。
それでは、優秀なコンサルタントの力を借りてさえいればこのような詐欺的な運用会社を必ず避けることができたのか、といえば、大いに懸念を抱かざるをえない。「自らの人脈があってこそ掘り出し物への投資機会が得られた。情報開示が不充分なのはノウハウの流出を防ぐためでやむを得ない。不自然にみえる点があっても、紹介者が信用できる人物なので大きな懸念とはならない。」と信じる理事と、「定量的には優れているが、定性的には問題が大きい。異常な収益を今後もあげ続ける可能性を完全には否定できないが、過去の実績が虚偽である可能性が認められるので投資対象とすべきではない。」と進言するコンサルタントとの対立になってしまった場合、基金の内部ではどのような手続きを経てどのような判断が下されるだろうか。また、仮に虚偽の可能性をふまえて少額の投資を行い、良好な運用成果が報告され続けたとした場合、当初のコンサルタントの進言は変わらずに尊重され続けるだろうか。
AIJ問題のような分かりやすい「事件」に限らず、学校法人や地方自治体(およびその外郭団体)の仕組み債運用における過大な含み損の発覚などに関しても、実は同じような構造問題が存在している。もちろん、個別の投資機会(ファンドや債券の利払条件等)の優劣に関する評価結果を外部の専門家に求めることは決して無駄ではない。しかしながら、こうした専門的ノウハウを活かすためには、まずは適切な運用方針を備え、これを実行するための確実な運用体制を構築することが不可欠である。例えば、理事会(役員会)の開催頻度を増やさないために過大な権限移譲を行ったり、事後承諾を可能にしたり、といった設計上の不備が放置されていれば、どれだけ専門的なノウハウをつぎ込もうとも、これを完全に補うことはできない。外部からの検証によりこのような不備を発見し、解消していくことが我々の使命の一つである。
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