-ブラジルへの技術移転、ロイヤリティ回収における注意点(注1)-
ブラジル・コスト以外にも、ブラジルへ進出する際に注意しなければならない点がある。たとえば、日本の製造業がブラジルに工場を設立した際、工場立ち上げの際には日本の本社がバックアップする形で技術指導を行い、日本から図面やノウハウの提供を受けて生産するために”親子間”で技術移転契約を締結するケースが多い。しかし、ロイヤリティを日本へ送金し、かつ、支払われるロイヤリティの損金算入を可能とするためには、日本の特許庁に相当する INPI(Instituto Nacional da Propriedade Industrial、国立工業所有権院)へ届け出を行い、あらかじめ技術移転契約を登録しておく必要がある(注2)。ところが、登録手続きの際に契約内容に関する審査が行われるため、登録に時間がかかる上(通常半年、長いと1年かかるとの指摘もある)、INPIが定めたルールに合致しない場合は登録が拒否される。
また、ロイヤリティ料率には業種ごとに上限設定があり、最大でも、技術移転の対象となる技術を用いて生産された製品の売上高の5%までしか認められない。年率にならして最大5%までという制限がつくため、5%枠を使い切ってしまえば、工場立ち上げの際に本社が負担した人件費や図面代をロイヤリティとして一括送金することもできない。
さらに、技術移転契約期間は通常5年間までと決められており、延長が認められたとしても最長10年までとなっている。技術ごとに技術移転契約を締結すると、息の長いロイヤリティ回収が困難になるので要注意である。
このほかにも、ブラジルではノウハウのライセンスは認めておらず、技術移転契約(ノウハウ提供契約)終了後のノウハウの買い取りも認めていない。5年間の契約終了後は、技術を供与されたライセンシーはノウハウを自由に使うことができてしまう。ノウハウを競争力の源泉とする日本企業は、ブラジルでの技術移転や合弁事業に際して、上記の点に十分留意する必要がある。
-ブラジルとのWin-Win関係構築、良好なパートナー関係構築へ-
日本にとって、ブラジルは海外で最大規模の日系社会があるために「遠くて近い国」といわれてきた。しかし、政治経済面ではまだまだ「遠い国」であって、ビジネスをとりまく環境面でも越えるべきハードルが多い。それでも、大国意識が強くアメリカにも屈することのないブラジルは、資源大国であるばかりでなく、世界でも類をみないほどの親日国家である。日本語を理解し、日本的な考え方を共有できる多くの日系人の存在は、ブラジルへ進出する日本企業にとっても心強い。ブラジルのビジネス環境を十分理解した上で、こうしたポテンシャルを活かすことができれば、ブラジルは日本にとって最高のビジネスパートナーとなってくれるだろう。
経営不振に陥った日航がブラジル・サンパウロから撤退したのは2010年10月のことであるが、日々存在感を増す韓国や中国に危機感を募らせる現地の日本企業や日系人からは、「大韓航空機がサンパウロに舞い降りるのに、日系のエアラインが飛ばない現状は寂しすぎる」と、日本の航空会社の就航復活を切望する声が出ている。実のある投資に結び付けるためにも、一時的なブームに終わらせず、今こそ、日本は真剣にブラジルとのWin-Win関係を構築すべく、南米に”熱い視線”を向けるべきだろう。
(注1)この点については日本機械輸出組合「投資協定に関する国際的な最新動向(技術移転・資金回収)分析のための調査報告書」(平成23年3月)を参照されたい。(外部リンク)
(注2)ロイヤリティを海外へ送金するには、INPIに登録した後、ブラジル中央銀行にも登録をする必要がある。技術移転を伴わない送金はINPIへの登録は不要であるが、何らかの技術移転にかかわる送金とみなされた場合、銀行は登録を拒否し、INPIへの登録や弁護士への相談を要求することもある。
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