1. 京都議定書第2約束期間はすぐそこ
京都議定書の第1約束期間は、2012年末に終了する。そして2013年からは、第2約束期間が始まる予定である。日本の多くの企業が、経団連自主行動計画等において活用される京都メカニズムクレジット(一般的に、「京都クレジット」、単に「クレジット」、「排出権」等と呼ばれる)を保有している。
一方、日本政府は、2013年以降京都議定書における排出削減目標を負わないことを明言しており、今後日本が京都クレジットを活用できるかは、国際交渉の結果に左右される可能性がある。また、ここで注意する必要があるのは、企業が保有する京都クレジットについても、国際交渉の結果が活用方法等に影響を与える可能性があるという点である。
2. クレジットが使えなくなる可能性がある?
京都議定書において使用が認められている仕組に、京都メカニズムと呼ばれる市場原理を活用したメカニズムがある(注1)。これらは京都議定書の排出削減目標の達成を支援するための仕組であり、この中で日本企業が数多くのプロジェクトを実施し、結果として大量の京都クレジットを保有するに至った。
京都クレジットを保有する企業は、日本が2013年以降、京都メカニズムを使用できなくなる可能性があることに注意する必要がある。日本は、京都議定書の第2約束期間において排出削減目標を負わないため、目標達成を支援するための仕組である京都メカニズムを使用するためには様々なハードルをクリアする必要がある。例えば、日本が、京都メカニズムを継続して使用し続けるためには、第1約束期間のルールがそのまま適用されると想定した場合、京都メカニズムの参加要件(注2)を満たす必要があるが、この要件の中には、京都議定書の排出削減目標を負う国のみクレジットを活用できるという記述がある。また、目標を持つ国にのみ割り当てられる排出枠の記録が必要などの要件があり、これらの条文をそのまま解釈すると、第2約束期間以降、日本は京都クレジットを使用できなくなる可能性がある。
3. 企業が考慮すべきこと
京都クレジットを保有している企業は、仮に日本国内の口座において京都クレジットを管理し続けると、この先、これらの京都クレジットを日本の口座から外に移転できなくなる可能性がある。
一部の企業では、このようなリスクをヘッジするために、欧州に口座を開設したりする動きがある。しかし、ここでも考慮しなければならないことは、各国の国別登録簿において、第1約束期間から第2約束期間へ繰り越せる京都クレジット量には上限(注3)があり、従って企業が繰り越せる量にも上限が設定されうるということだ。欧州は、経済危機に直面しているため、経済活動の停滞に伴い、多くのクレジットが余っていると想定される。こうした国に口座を開設し、クレジットを保有する場合は、当該国の京都クレジットの繰越上限についても留意が必要である。
いずれにしても2012年末にカタール・ドーハで開催される京都議定書に関する会合における決定が、企業の保有する京都クレジットの今後の扱いに大きな影響を与えるため、注視する必要がある。
(注1)以下の3つの仕組が存在する(出所:UNFCCC、京都議定書)。
<1>途上国でプロジェクトを実施し、その結果得られた排出削減量をクレジットとして先進国の排出削減目標達成に使用するクリーン開発メカニズム(CDM)
<2>先進国同士でプロジェクトを実施し、その結果得られた排出削減量をクレジットとして、クレジットを獲得した先進国の排出削減目標達成に使用する共同実施(JI)
<3>先進国同士で、排出枠、クレジットを取引する国際排出量取引
(注2)決定3/CMP1, 附属書パラ31
(注3)CDMからのクレジット及びJIからのクレジットは、双方ともに排出枠の2.5%までしか繰り越すことができない(出所:決定13/CMP.1, 附属書パラ15)
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