福祉サービスの性格が救貧的、選別的なものから、サービスを必要とする人であれば誰でもサービスを利用できるという一般的、普遍的なものに変化してきているなかで、措置制度から契約制度へ移行し、サービスによっては市場原理を意識せざるを得ない実態がある。また法人の持続的かつ自立的な経営が求められ、収益事業も有するなかで、経営資源に対する投資(必要な整備・更新も含む)の考え方が社会福祉法人により強く求められるようになってきている。会計制度については、国も昨年には社会福祉法人に対する新会計基準を提示しているが、持続的に安定したサービス供給を行える社会福祉法人となるよう財務面での力を高めていく方針が背景に見られる。
本調査において、障害者施設の建て替え及び機能見直し等について自治体で課題となっていることを聞いたところ、「施設の建て替え手法・財源」を約6割の自治体があげている。また、「発達障害など多様な障害への対応」を全体の1/3、「施設運営の民営化」を全体の1/4があげている。その他としては「障害者数が増加しているため新たな施設整備が求められている。建設コスト削減のため既存建築物を活用したいが建築基準法上の用途変更ができず断念するケースが多い」という内容も見られた。
現在、社会福祉事業の多くは民間によって提供されているが、公共が直接提供している場合もある。公立施設においては、一般的に減価償却の概念はなく、施設の建て替え等の投資は年度の予算で執行するため、財政厳しい中で老朽化している社会福祉施設の建て替えの予算を捻出することはかなりハードルが高い。できるだけ民間に移管していく動きとなってきているが、福祉事業の場合、利用者からはサービス提供に公的関与を求める声があり、特に障害者支援の現場では根強いものがある。
行政が抱えるもう一つの課題が、施設運営について、外郭団体を作ってそこに任せてきたところが結構あるという事実である。社会情勢の変化の中で、自治体の外郭団体の自立化が求められてきている。自立化の意味合いは様々だが、出来るだけ行政の関与を減らし、自前の職員と自主財源、委託事業で採算を取れるようにしていくことが求められる。さらに委託事業も、民間の参入範囲が増えてきているなか、外郭団体に特命随契することがかなり難しい状況となっている。施設そのものを無償で渡す代わりに、施設の建て替えの費用も外郭団体に任せたいという事例も見られるが、運営を収支ギリギリのところで行っている上、内部留保の考え方があまりないなかでは建て替えはままならない。外郭団体の場合は、人件費の見直しが課題となることが多く、その点を含めて事業の収支構造を見直すことができれば、自立化も出来ないことではない。
近年は、公共が施設の再編整備する場合に、地域の様々な資源と行政事業・制度を、利用者にとってベストミックスで利用できるようコーディネートする機能を付帯させて、建て替え時(又は新築時)に整備する例が複数見受けられる。利用者の情報を関係機関で共有し、出来るだけ迅速に答えを返し、次につなぐ仕組みであり、施設の建て替え時にこうした総合相談機能を入れ込むのである。たとえば発達障害であれば、医療的判断と教育、就労支援、リハビリテーション、保護者支援が必要である。これらに関係する機関が相談し合い、方針を出すためには、それぞれがばらばらに立地しているより、一箇所にいる方が迅速かつ円滑であるのは自明である。一箇所という意味合いは、物理的に施設が集まる場合、関係機関から人が出向等集まる場合、そしてICTなどのツールを用いて離れていても情報をリアルタイムで共有する場合などが考えられるが、拠点での対応、地域での対応など、それぞれの事情に応じて使い分けることになる。
先進事例などを参考に整理すると、社会福祉法人営の建て替えを促していくためには、適切な会計管理、法人及び施設の運営計画の必要性について先ずは法人に意識付け、具体的な経営改善を進めつつ、収支を踏まえた実現性のある建て替え計画を作ってもらうことが先ずは重要である。公立直営の施設では、サービス提供部分は出来るだけ民間に移管しつつ、公的主体として担うべき役割(総合相談・総合調整機能、サービス不足エリアでの資源育成など)を整理するなど機能の見直しを行い、建て替え等に際してその機能を十分に発揮できるように計画を立てて整備する。また、公的施設を民間に委ねる際には、行政としての意向を一定反映できるような関与策を持つことも重要となる。こうした条件を押さえた公民共同での事業化手法(設計施工分離方式 (従来型)、設計施工一括方式 (DB方式)、PFI方式、定期借地方式など)はいくつか考えられ、当社への問い合わせも多い。本調査結果については、別途レポートを作成しているので、閲覧をご希望される場合はご連絡をいただければ幸いである。
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