企業における技能者育成余力の低下
日本の製造業は、今後も引き続き基幹産業として日本経済をリードし続けることが期待されており、強みであるものづくりの現場の力を維持発展することが必要不可欠である。
一方、企業においては経営のスリム化から生産要員の削減が進められており、OJTで新人を育成する余裕がなくなってきている。また、コンピュータ化、装置の高度化等により、技能者の役割が従来とは変化しており、社内で育成する力が低下してきている。
そうした背景から、外部の教育訓練機関への職業訓練への要求が高まっている。
技能教育の状況
引き続き日本の製造業が高い技能力を維持するためには、公共による技能の教育訓練、特にものづくり現場を支える人材を若年時から養成している工業高校の職業訓練を充実することが期待される。しかしながら、工業高校は、少子化等を背景として規模が縮小するとともに、高学歴化へのニーズから総合学科への移行等により従来型の技術や技能の修得を重視する実習型教育が減少してきている。文部科学省の学校基本調査によると、2011年度の工業に関する学科の高校卒業者数は81,601人、そのうち就職者は51,086人であるが、製造業就職者は30,028人、生産工程従事者は32,235人と少なくなっている。一方、求人倍率は3.9倍、就職率は98%と、企業からの工業高校への人材ニーズは高く、ミスマッチが発生している。
技能教育の強化
工業高校では高学歴化のニーズに対応した新たな取り組みが進められている。一方、職業訓練についても、熟練技能者による指導、インターンシップによる職業訓練体験、工業マイスター科等特色ある学科の設置等、様々な取り組みが実施されている。今後は、その取り組みをさらに進め、技能教育において、生徒と企業を強力に引きつける魅力ある学校づくりが必要であろう。例えば、最先端の生産設備をもち、世界から優れた生徒を集め、先端産業の技能者を養成する世界最高峰の工業高校の設立など、工業高校の技能教育のイメージを変えるインパクトのある改革を期待したい。
認定職業能力訓練制度の活用
ものづくりに強みをもつ自動車会社の例では、自社が職業能力訓練校を設置、運営し、中学卒業者を採用して、将来の技能職場の中核人材として育成している。その人材から数多くの技能五輪の金メダリストや現代の名工が生まれている。さらには自社の海外生産に対応した国際人の育成を目指しており、自社の人材ニーズに合致する訓練を実施している。認定職業訓練は、企業だけではなく、公共が多数施設を設置、運営している。
技能教育、職業訓練制度を活用して企業の最新ニーズに合致した多様で魅力ある職業訓練を実施し、産官学が一体となって将来のものづくりの現場を担う技能「人財」の育成に注力することを期待したい。
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