所得分配を考える(1) 拡大する所得格差

2014/02/14
経済

厚生労働省は、昨年10月「平成23年度所得再分配調査」結果を報告した。また、OECDは2011年に「Divided We Stand」という報告書を発表して、OECD加盟各国の所得格差について分析している。本稿ではこの2つの報告書を用いながら、日本も含めた所得格差の最近の動向について素描してみたい。

我が国で所得格差が話題になったのは、2006年1月19日における内閣府の月例経済報告で「統計データから経済格差は確認できない」旨の説明を行ったことによる。それが発端となり国会内で議論となり所得格差が大きな問題となった。その後、大竹(2005)、橘木(2006)等の優れた分析が数多く発表されている。

2008年にリーマンショック、2011年に東日本大震災を経て、我が国の所得格差が長期的にどのように変化したかを図表1に示している。ここでジニ係数とは、所得分布の歪みを測る尺度であり、0から1までの値をとる。0に近い値ほど所得格差が小さく、1に近いほど所得格差が大きいことを意味している。また、図表1で示している当初所得とは、雇用者所得、事業所得、農耕所得、畜産所得、財産所得、家内労働所得及び雑収入並びに私的給付(仕送り、企業年金、退職金、生命保険金等の合計額)の合計額をいう。また、再分配所得とは、当初所得から税金、社会保険料を控除し、社会保障給付(現金、現物)を加えたものである。定義により、当初所得は公的年金を含まない一方で退職金が含まれていることがわかる。不況期に退職して退職金を受け取った人は一時的に所得が増加し、ジニ係数に影響を与える。また、同統計では高齢者世帯の公的年金受取が含まれないため、公的年金だけが収入となっている人は所得のない者とみなされる。そのため、当初所得のジニ係数は実感とかけ離れたものになる傾向がある。

さて、リーマンショックが発生する以前の2005年の所得再分配調査では、当初所得のジニ係数の値が0.5263、再分配所得では0.3873となっている。当初所得は1981年から一貫して増加傾向にあり2011年に0.5536となっている。再分配所得は2000年代以降横ばいで2011年には0.3885となり、結果として両所得のジニ係数の差は拡大している。長期的にみると再分配所得は当初所得に比べて緩やかな増加とどまっており、税金と社会保険料の拠出、年金・恩給、医療、介護等の受給という所得再分配制度が機能して、所得分配によるジニ係数の改善が確認できる。2011年の改善度(※)をみると、当初所得のジニ係数の増加により31.5%と過去最大となっている。この拡大傾向には先に述べた所得の定義も影響しているだろう。

図表1.拡大する我が国の世帯所得格差
図表1.拡大する我が国の世帯所得格差

注1:1972年からは3年毎に調査を実施
資料:厚生労働省「所得再分配調査報告書」

海外における所得格差の動向をOECD(2011)から示してみよう。図表2は1985年から2008年にかけてOECD各国のジニ係数を計測し、格差が拡大している国、横ばいの国、格差が縮小している国毎に分類して示している。OECD加盟国のジニ係数は、1980年代央には平均で0.29であったが、2000年代後半には同0.316となり10%近い増加をみせている。ジニ係数はOECD加盟国のうち17カ国で増加しており、米国は0.34から0.38へ、イスラエルは0.33から0.37へ、英国は0.32から0.34へと増加している。これまで所得格差が小さいといわれてきた北欧3国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)、デンマーク、ドイツでも所得格差が拡大している。

こうしてみると、所得格差が拡大しているのは決して日本だけではなく、これまで所得格差が大きいとされている米国、英国はもちろんこと、所得格差が小さいとされてきた諸国でも拡大しているところが注目される。所得格差の拡大は多くの国で共通に見られるものの、その原因は各国の状況によって大きく異なっていることがわかっている。

(続く)

図表2.OECD各国の所得格差の動向
所得分布のジニ係数が拡大(1985-2008年)
図表2.OECD各国の所得格差の動向

注1:「格差横ばい」とはジニ係数の変化率が2%以下の国。
注2:イスラエル*のデータは: http://dx.doi.org/10.1787/888932315602.
資料: OECD Database on Household Income Distribution and Poverty.
出所:OECD “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”

参考文献
OECD(2006) “OECD Economic Surveys: Japan”, OECD, Paris
OECD(2008) “Growing Unequal? Income Distribution in OECD countries”, OECD, Paris
OECD(2011) “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”, OECD, Paris
大竹文雄(2005)『日本の不平等  格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社
大竹文雄、富岡淳(2007)「不平等の認識と再分配政策」林文夫編『経済制度設計』
橘木俊詔(1998)『日本の経済格差 -所得と資産から考える-』岩波書店
橘木俊詔(2006)『格差社会 何が問題なのか』岩波書店
内閣府(2007、2009)『年次経済財政報告』
日本労働組合総連合会(2006)「小泉総理の「格差社会」認識を問う」


(※)再分配による改善度=1-(再分配所得/当初所得)

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