所得分配を考える(2) 所得格差拡大の原因(その1)

2014/02/21
経済

1.我が国の所得格差拡大の原因

昨年発表になった「平成23年度所得再分配調査」から世帯別の調査結果を図表1に示している。世帯類型別にジニ係数(※1)をみると、総数の当初所得が0.5536であるのに対し、「単独世帯」が0.6801、「夫婦のみ世帯」が0.6309と総数のジニ係数を上回っている。世帯主年齢別についてみると、「65~69歳」が0.6175、「70~74歳」が0.7108、「75歳以上」が0.8109となり総数のジニ係数を上回っている。

世帯主年齢別に、拠出額(税金、年金、医療、介護・その他)と受給額(年金・恩給等の現金給付と医療、介護の現物給付の合計)の差と当初所得の比率を指標化した再分配係数(※2)をみると、「29歳以下」で-5.4%、「30~34歳」で-6.1%、「35~39歳」で-6.5%、「40~44歳」で-10.4%、「45~49歳」で-11.4%、「50~54歳」で-6.5%、「55~59歳」で-11.5%となり、59歳以下の世帯全てで負の値を取っている。即ち、拠出合計額の方が、受給額より大きくなっている。同様に世帯主年齢が「65~69歳」で73.9%、「70~74歳」で126.1%、「75歳以上」で163.2%となっており、拠出額に比べて受給額が大きくなっていることがわかる。

この集計結果を総合すると、高齢者単独世帯、高齢者夫婦のみ世帯等といった高齢者の少人数世帯で、所得再分配後の再分配所得が増加していると推測できる。また、これらの世帯で当初所得の格差は大きいが、拠出や受給の再分配効果によって再分配後の所得が増加するとともに格差が縮小することによって、当初所得では大きかったジニ係数が再分配所得では小さくなっているとみてよいだろう。

これを正確に把握するためには、公表された集計結果ではなく個票データを使って所得格差を計測する必要がある。大竹(2005)、大竹・小原(2010)では総務省『全国消費実態調査』の個票データを用いて1984年から2004年の所得分析を行っている。これらによれば、1980年代から1990年代にかけておきた所得格差の拡大は人口の高齢化が原因であった。また、2000年代からは若年層の所得拡大が生じており、若年層の非正規社員が増加しているためだとしている。

図表1 世帯類型別、世帯主年齢別ジニ係数
図表1 世帯類型別、世帯主年齢別ジニ係数

資料:厚生労働省「平成23年度所得再分配調査報告書」

2.海外の所得格差拡大の原因

OECD各国の労働者について賃金が上位10%の者と下位10%の者の賃金比率を計算し、図表2に推移を示している。これはジニ係数とは異なるが、賃金格差を表す指標であり、長期的に各国で賃金格差が拡大していることがわかる。英国と米国では過去30年間格差拡大が一貫して拡大している。ハンガリーでは1992年に3.6倍であったが、2006年には4.6倍となりその後やや減少している。ポーランドでは1992年に2.9倍であったが2004年には4.4倍となり格差拡大したが、その後3.6倍へと低下している。各国の所得格差(※3)の拡大は賃金格差の拡大が原因であることがわかる。ただし、日本(1979年で3.0倍、2008年で3.0倍)とフランス(1979年で3.2倍、2007年で2.9倍)は例外的な動きをしている。この指標でみる限り日本では賃金格差の拡大(※4)は生じていない。日本で所得格差の大きな原因となっているのは人口の高齢化(※5)である。OECD(2011)によれば、多くの国の賃金格差の原因となっているのは、金融と貿易のグローバリゼーション、技術進歩、労働市場における規制緩和・雇用慣行の変化である。

(続く)

図表2 賃金格差の拡大傾向

(G7各国)
図表2 賃金格差の拡大傾向(G7各国)

(G7以外のOECD各国)
図表2 賃金格差の拡大傾向(G7以外のOECD各国)

(北欧各国)
図表2 賃金格差の拡大傾向(北欧各国)

注:賃金格差の指標はフルタイム労働者における上位10%と下位10%の賃金の比を計算している。
資料:OECD Earnings Database
出所:OECD “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”

参考文献
OECD(2006) “OECD Economic Surveys: Japan”, OECD, Paris
OECD(2008) “Growing Unequal? Income Distribution in OECD countries”, OECD, Paris
OECD(2011) “Divided We Stand Why Inequality Keeps Rising”, OECD, Paris
大竹文雄(2005)『日本の不平等-格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社
大竹文雄、小原美紀(2010)「所得格差」内閣府経済社会総合研究所 企画・監修、樋口美雄編集、『労働市場と所得分配』慶應義塾大学出版会
内閣府(2007、2009)『年次経済財政報告』
厚生労働省『所得再分配調査報告』


(※1)「所得分配を考える(1)」を参照のこと。
(※2)再分配係数=(再分配所得-当初所得)/当初所得
(※3)「所得分配を考える(1)」を参照のこと。
(※4)日本において、非正規雇用と正規雇用であるとか男女の賃金格差が増加していないという意味ではない。これらの格差は、この指標では現れない。
(※5)「所得分配を考える(1)」を参照のこと。

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