持続可能な大会の開催に向けた東京都のビジョン
2020年オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」)の東京開催が昨年9月に決定してから約半年が経過した。1月には大会組織委員会が設立され、いよいよ本格的な準備が開始されつつある。
近年、こうしたスポーツイベント等の開催において、持続可能性(サステナビリティ)に配慮することが新たな世界の潮流となっている。東京都知事を会長とする招致委員会がIOC(国際オリンピック委員会)に提出した立候補ファイル[1]においても、「Discover Tomorrow – 未来(あした)をつかもう」という総合ビジョンの下に、大会の全ての面において「持続可能なレガシー」の社会全体への浸透に努め、また国際規格ISO 20121「イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム」に基づいて持続可能な社会、環境、経済の実現に向けた取り組みを進めるといったコミットメントが記されている。
オリンピックのレガシー
オリンピック・パラリンピックは、あらゆる国際スポーツイベントの中でもその規模やインパクト、話題性において最大級である。アジア初のオリンピックとなった1964年東京大会の開催によって、我が国にはハード・ソフトの両面において今に伝わるさまざまな恩恵がもたらされた。代々木競技場や日本武道館といった建築的にも商業的にも価値ある施設、都心部の大規模緑地である代々木公園(選手村跡地)、東海道新幹線や首都高速道路などの高度経済成長を支えた都市・交通インフラ、世界初の国際衛星を利用したテレビ生中継を通じたメディア産業の発展、水泳、体操などのスポーツクラブ(スクール、教室)の一般化やサッカーをはじめとする日本リーグの誕生、世界で戦える選手の育成・強化のしくみ等、枚挙に暇がない[2]。
このように開催都市・国や、ひいては世界中に後世までもたらされる恩恵は、オリンピックの「レガシー(遺産)」と呼ばれている[3]。
持続可能なイベントの開催、持続可能なレガシーの創出
一方、「持続可能な発展」の概念は、国連の「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した最終報告書(いわゆる「ブルントラント報告」)において提唱された。「持続可能性」とは、「将来の世代のニーズを充たしつつ、現在の世代のニーズをも満足させるような」発展(開発)のあり方であり、その実現の程度である。1992年の国連地球サミットでは、この考え方を基に「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」が合意され、今日の地球環境問題に関する世界的な取り組みの基礎となっている。IOCでも1996年、オリンピック憲章に「持続可能性」の概念が追加され[4]、大会開催における持続可能性は次第に重要視されていった。
初めは環境問題が中心課題であったが、今では環境、社会、経済の各課題にバランス良く取り組むアプローチが主流となっている。例えばイベント開催を通じた経済効果や雇用の創出、人材登用におけるダイバーシティ(多様性)の推進、途上国生産地の環境を守り生活を支援するフェアトレード、年齢や身体障害の有無に関係なく誰でも施設や製品・サービスを支障なく利用できるアクセシビリティの向上などである。2010年バンクーバー冬季大会では「レガシー」の創出につながる6つの持続可能性パフォーマンス目標を掲げ、大規模スポーツイベントの持続可能な管理運営モデルやレポーティングシステムを開発し、これもレガシーとして位置づけた[5]。2012年ロンドン大会では「持続可能なレガシーの創出」を目指して移民が多く経済的に停滞していた東ロンドン地区を中心に取り組みが展開され[6]、ISO 20121認証の取得によって持続可能なイベント運営は第三者の目から見ても確実なものとなった。
1964年東京大会のレガシーは偉大な恩恵だったが、振り返って環境や多様性への配慮といった現代的な持続可能性の観点があったかどうかは不明である。今やイベントの開催やレガシーの創出においても持続可能性に配慮しなければならない時代が到来した。都市インフラも環境技術も、社会経済的にも成熟した都市・東京での次回大会開催には、本格的な持続可能性への取り組みに向けた大きな期待がかかっている。
【参考文献】
[1] 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会「立候補ファイル」(http://tokyo2020.jp/jp/plan/candidature/index.html)
[2] 日本オリンピック委員会(JOC)「オリンピックコラム:東京オリンピック1964」(http://www.joc.or.jp/past_games/tokyo1964/)
[3] IOC(2013)Olympic Legacy Brochure
[4] 日本オリンピック委員会(JOC)「スポーツと環境:これまでの歩み」(http://www.joc.or.jp/eco/history.html)
[5] VANOC(2010)Vancouver 2010 Sustainability Report 2009-10
[6] LOCOG(2009)London 2012 Sustainability Plan 2nd Edition
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