ISO14001 2015年改正の動向とポイント

2014/04/04 奥野 麻衣子
環境
マネジメント
サステナビリティ
ISO
戦略
リスク管理

2015年改正の背景

環境マネジメントシステムの国際規格ISO 14001は、2015年夏頃の発行を目指して大規模な改正作業中である。1992年の国連地球サミット(リオ・サミット)開催を機に「持続可能な開発」に向けた産業界の取り組みとして提案され、国際標準化機構(ISO)が1996年に規格を発行して以来、約20年ぶりのアップデートになる。その間、産業界における環境への取り組みは浸透し、サステナビリティ(持続可能性)の概念とともに大きく発展してきた。

リスクベースのマネジメント手法

今回の改正には2つの大きなポイントがある。1つはISOマネジメントシステム規格に共通の要求事項等を定めた「附属書SL」の適用、2つめは20年後を見据えた環境マネジメントシステム(EMS)のあるべき姿、将来課題の検討である。

「附属書SL」は本来専門家向けの業務用指針の一部で、ISOにおいてマネジメントシステム規格(以下MSS)を作成または改正する際の手続き等を定めたものである。2012年の指針改正では、原則として全てのMSSに適用される共通の上位構造、テキスト、用語及び定義が示された。つまり、環境、品質、情報セキュリティ、事業継続、イベントの持続可能性など、どのような分野でも原則として同じMSSの章立てや要求事項(以下、便宜的に「共通テキスト」と呼ぶ)をベースにしなければならなくなった。

この共通テキストの特徴は、「組織の状況の理解」をふまえた「リスクと機会への取り組み」が導入された点にある。こうしたリスクベースのマネジメント手法は現代的であり、戦略的だ。意図する成果の達成に向けて事業環境を分析し、ステークホルダーのニーズや期待をつかみ、変化する経営環境への対応を可能にする。ISOのマネジメントシステムは現場レベルの管理だけではなく、経営戦略レベルのマネジメントのモデルとして新たに形式を整え、通常の事業活動に一体化されることを目指している。

戦略的な環境マネジメント

もう一つのポイントはEMSの将来課題である。率直に言えば現在のISO 14001は20年前のスタンダードであり、我が国においてもサプライチェーン管理や環境適合設計、環境報告書など、民間企業のほうが規格の要求事項よりも進んでいるところが多々ある。グリーン調達や社会的責任投資の発達に伴い、企業側で戦略的に環境課題へ対応しなければ生き残れない時代になっているからであろう。新興国や途上国の経済発展は著しく、OECDはこのままだと2050年までに世界経済は現在の4倍に拡大し、エネルギー需要が1.8倍、温室効果ガスの排出量は1.5倍に増大すると予測している[1]。異常気象や資源の希少化といった事業に直結しうる脅威は世界的に顕在化しつつある。

そうした現代の知見を反映し、環境パフォーマンスの重視、ライフサイクル思考、バリューチェーンマネジメントの導入、レポーティングやコミュニケーションの強化など、戦略性が高くかつ成果重視の内容が、今後20年にわたって持続可能な開発と環境の保全に貢献できるEMS規格の要素として改正案に盛り込まれようとしている。

また、実際にISO 14001を利用する全世界のユーザーを対象としたアンケート調査[2]が2013年に実施されており、その結果もふまえて改正案が検討されている。

今後の予定と方向性

現在のドラフト(委員会原案:CD2)は、関係各国の投票の結果、次の段階(国際規格草案:DIS)へ進むことが承認された。同時に、ドラフトに対しては各国から多数のコメントが寄せられており、これらは2月末~5月末にかけて2度の国際会合で検討されることになっている。うまくいけばDISの発行は今年の夏頃が見込まれるが、検討の次第によっては遅れる可能性もある。その後、2015年の前半には最終国際規格草案(FIDS)が出され、投票を経て国際規格の発行に至る予定だ。

DIS段階ではまだまだ多くの変更があるだろうが、特に経営戦略としての環境対応や環境改善成果の重視など、重要で新しい考え方は既に姿を現しているので、注目されたい。

【出典】
[1] OECD(2012)OECD Environmental Outlook to 2050: The Consequences of Inaction: Key Facts and Figures
[2] ISO(2014)ISO 14001 Continual Improvement Survey 2013

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