今日、クラウドファンディングは、起業を目指す人々や社会活動の担い手による活動資金の獲得を目的とした利用だけでなく、地方自治体などの公的機関にも利用の拡大がみられる。本稿では、新たな潮流としてのクラウドファンディングが、産業振興を中心とした地域活性化にむけた活動資金の調達手法として活用されつつあることを踏まえ、地方自治体がクラウドファンディングを利用・導入する意義や効果を整理する【総論】とともに、今後、この新たな仕組みを地方自治体が導入するにあたり、どのような検討を行うことが必要か、論点整理を行うこととしたい【実践編】。
地方自治体が「行政関与型のクラウドファンディング」のスキームを実際に事業化し、域内事業者が資金募集を実施できるようなフェーズに到達するためには、次の点に関する方向性の整理や状況の具体化を図る必要がある。後編では、次の5つの点について、それぞれみていくことにする。
1)「クラウドファンディングを通じて解決可能なこと」の把握、方向性の決定
2)「クラウドファンディングに対する行政関与のあり方」の検討、方向性の決定
3)行政関与型のクラウドファンディングの連携主体の抽出、実施体制の構築
4)行政関与型のクラウドファンディングの留意事項の整理
5)クラウドファンディングに対する事業者、市民の認知向上
クラウドファンディングを通じて解決可能なこと
クラウドファンディングは、近年成長著しい新たな資金調達の仕組みである。ただし、国内のクラウドファンディングのプラットフォームをみると、資金募集がなされているプロジェクトの「内容」「募集金額の規模」には大きな差異があり、多くのプラットフォームでは、数十万円~数百万円の資金募集を行うプロジェクトが主となっている。
図表 国内のクラウドファンディングのプラットフォームの利用状況
類型 | プラットフォーム名 | 募集金額(万円) | ||
---|---|---|---|---|
最高額 | 最低額 | 平均額 | ||
寄付型 | Just Giving | - | - | - |
購入型 | READY FOR | 600 | 10 | 110 |
Camp Fire | 150 | 10 | 55 | |
貸付型 | Maneo | 5,500 | 200 | 2,134 |
投資型 | セキュリテ | 5,100 | 435 | 1,404 |
クラウドバンク | 7,500 | 500 | 1,267 |
上表では、各プラットフォームにおいて直近(2014年6月18日時点)に募集を開始した15案件について集計した。
なお、中小企業やコミュニティビジネスの担い手が、設備投資を行う目的でそれに必要な資金満額(例:数千万単位の資金)を国内のクラウドファンディングのプラットフォームを通じて調達することは可能である。ただし、国内では小口投資(投資型)ではなく、購入型としてのクラウドファンディングの利用者が大勢を占めている現況を踏まえると、クラウドファンディングについて「資金調達」の面だけでなく、顧客やファンの獲得手段など、「資金調達以外」の側面にも目を向け、検討を行うことが重要であろう。
そのため、地方自治体がクラウドファンディングの利用・導入を検討する際、まずもって「クラウドファンディングを通じて利用事業者が獲得可能なこと/解決可能なこと」を明らかにすることが重要である。その上で、行政関与型のクラウドファンディングを用いた制度がどこに主眼を置き、利用事業者が同制度を活用することにより、何を得ることができる仕組みとするのか具体化を図っていくことが必要なのではないだろうか。
クラウドファンディングに対する行政関与のあり方
前節に示したように、クラウドファンディングを通じて域内事業者が抱えるどのような課題を解決するのか、政策的に域内産業の強み・弱みをどのような方向性に誘導するのか明らかにした上で、クラウドファンディングの仕組みに対し、行政がどのように関与するのか、地方自治体における先行事例等を参考に検討することも一案である。
また、クラウドファンディングは、事業活動に関する情報発信の手法、顧客やファンを獲得する手法としても優れたものである。しかし、クラウドファンディングをあくまで「資金調達」の手法として捉える場合、行政関与型のクラウドファンディングを通じて、行政が民間事業者等の資金調達を支援する「目的」および「その対象」について具体化を図るにあたり、中小企業やNPO等に対する助成・補助メニューを棚卸しするとともに、各施策の実績や窓口等で把握している事業者のニーズ等を念頭に検討を進めることが得策である。そのため、他自治体の先行事例に加え、行政の民間事業者やNPO等に対する助成・補助メニューの実績や課題等を踏まえつつ、行政関与型のクラウドファンディングの利用・導入方向性について検討することが肝要である。
図表 行政による民間事業者に対する「助成・補助」メニューの類型整理
(例:産業振興を主目的とした制度設計を想定する場合)
また、行政がクラウドファンディングの仕組みを活用する際、行政がプラットフォームに対し「出資」「直接運営」しない場合、行政が主として関与することができるフェーズは、プラットフォームに資金調達者が「登録する前」、あるいは「資金調達後」のいずれかに限られ、次に示すように、行政関与の形態をもとにいくつかの類型に整理することができる。こうした類型を踏まえ、行政関与型のクラウドファンディングの具体化、要件定義を行っていくことが重要であると考えられる。
図表 クラウドファンディングに対する行政関与のあり方のイメージ
【行政関与の類型イメージ】
■クラウドファンディングサイトの「登録前」の行政関与
パターン1)目的:特定分野の事業活動の活性化
域内における特定分野の事業活動を活性化させるため、クラウドファンディングサイトの運営事業者と行政が連携し、資金調達の対象テーマの設定・募集を行い、申請案件について行政が審査する。
パターン2)目的:資金調達の円滑化
事業活動そのものは優れているにも関わらず、認知度が低いなどの理由で資金調達が難航する事業者を支援するため、クラウドファンディングを通じて資金調達を希望する事業者のうち、一定基準を満たした団体を行政が認証し、例えば、域内の地域産業の優れた担い手としてファンディングサイトに掲載する。
パターン3)目的:特定分野の事業者間の連携促進
域内の産業構造の厚みを増すため、域内事業者間、あるいは特定分野を志向する事業者間の連携(マッチング)を促すことを目的に、複数事業者の共同事業/共同提案のみを対象に、クラウドファンディングを通じた資金調達を希望する事業者を募集する。
例1:複数事業者による共同提案を募集要件とする
例2:募集後、資金調達を希望する応募事業者と、行政が集約・把握している専門家(デザイナー、コンサルタント等)や域内事業者とをマッチングさせ、事業活動の磨き上げや新規アイデアの創出を行い、その結果を踏まえ、クラウドファンディングを通じて資金調達を行う。
(類似例:東京デザインアワード)
例3:複数事業者による共同提案を要件とせず、応募事業者のなかから、類似分野、内容の提案をした事業者について、行政がマッチングを行い、その結果を踏まえ、クラウドファンディングを通じて資金調達を行う。
■クラウドファンディングサイトによる「資金調達後」の行政関与
パターン4)目的:資金調達規模の拡大
資金調達規模の拡大による事業活動の活性化を図るため、クラウドファンディングサイトを通じて、満額の資金調達ができた場合、その調達額に行政が一定額を上乗せ助成する(例:マッチングファンド)。なお、クラウドファンディングの登録額を過度に低くすることによる悪用を防ぐため、行政と運営事業者が協議の上、一定額以上の資金調達を行うことを募集要件とすることも一案と考える。
行政関与型クラウドファンディングの連携主体、実施体制
地方自治体において、クラウドファンディングの仕組みを活用した資金調達スキームの具体化を図る際、クラウドファンディングのプラットフォームに対し、直接出資や運営に携わることはない場合、そこでは既存のプラットフォーム運営事業者との連携に基づくスキームの構築が前提となる。
その場合、「クラウドファンディングを通じて獲得可能なこと/解決可能なこと」と「クラウドファンディングを通じて行政が解決したいこと」の調整を図り、行政関与型のクラウドファンディング事業の目指すべき形を明確にした上で、その実現に最も適した連携パートナーを抽出し、具体の実施体制のあり方を検討・構築することが求められよう。
図表 連携主体の抽出イメージ
また、行政関与型のクラウドファンディングの利用をより積極的に促すためには、商工会議所、民間金融機関等と連携し、同制度を通じて資金調達を希望するであろう事業者や同制度に相応しい案件を発掘し、当該事業者等に対して個別にPRを行うことも必要である。そのため、域内金融機関等との意見交換を通じて、クラウドファンディングのプラットフォームと域内事業者とのマッチングを図るための連携形態を併せて検討・設計していくことが、行政関与型クラウドファンディングの利用拡大、成功において重要なポイントになるのではないだろうか。
加えて、行政関与型のクラウドファンディングの構築にあたり、域内事業者の状況やニーズ等をより深く把握しているこれらの団体との意見交換、調整は必要不可欠である。そのため、商工会議所や民間金融機関等との意見交換を踏まえ、行政関与のあり方、同プラットフォームが主対象とする分野などについて検討を行っていくことが必要であると考えられる。
行政関与型のクラウドファンディングの留意事項
行政関与型のクラウドファンディングでは、地方自治体がプラットフォームに対し出資や運営に直接関わらないものの、民間事業者の資金調達を間接的に支援する場合、寄付者/購入者/投資者は行政の関与を「公的な保証(お墨付き)」とみなす可能性があり、それに伴い、行政には一定の説明責任やリスクが生じる恐れもある。
そのため、他自治体の先行事例等をもとに、クラウドファンディングを通じて、民間の資金調達に対し行政が関与する際のリスク及びリスクヘッジの方策を把握し、あらかじめ、事業化に当たっての留意事項として取りまとめ、庁内で共有・認識しておくことが重要であると思われる。
クラウドファンディングの利用の掘り起こしに向けて
クラウドファンディングという新たな資金調達手法は、「近年台頭した新たなスキームであること」「インターネットを活用したスキームであること」から、世代間でその認知度や利用意向には大きな差があると推察される。そのため行政関与型のクラウドファンディングのスキームを、今後より多くの域内事業者、市民に利用してもらえるよう効果的な広報PRを実施し、クラウドファンディングに係る新たな事業開始に向け、機運の醸成を図ることも一案である。
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