2020年に向けロンドンに学ぶ自転車交通のあり方

2014/11/28 本橋 直樹
英国
まちづくり
観光

当社内横断的組織「日本2020戦略室」のご紹介

2020年の夏季オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決まり、大会企画運営、施設整備、会場周辺のまちづくり、海外からの観光客誘致、スポーツ振興、各種キャンプ地誘致等、さまざまな取り組みが動き始めています。当社は、多様で幅広い専門性を持つ研究員や、外部専門家とのネットワークを活用して、関係者の皆様の取り組みをお手伝いいたしております。
※「日本2020戦略室」は解散いたしました。

概要

当社では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの参考とすべく、先日、ロンドンにて、ロンドン大会時の取り組みやレガシー、また、そこから得られた教訓等について現地調査を行った。その結果について、今後、対談等も含め整理・発信していく。

まず、第1弾として、ロンドン市内の自転車交通システムであるBarclays Cycle Hireについて、ロンドンでの現地調査を踏まえ、その仕組みを概説するとともに、日本、東京への導入に向けた論点について整理する。

1.Barclays Cycle Hireの概要

Barclays Cycle Hireは、TfL(Transport for Londonロンドン交通局)が主体となり、ロンドン市内での自転車利用の促進を目的に2010年7月30日に導入されたレンタサイクルの仕組みである。

駅や観光地の周辺にDocking Station(自転車置き場)が設置されており、利用者は最寄りのDocking Stationで自転車を借りることができる。自転車にはスタンドが無いため、好きなところに自転車を止めることはできず、どこかに立ち寄る際には都度Docking Stationに返却する必要があるが、Docking Stationは地下鉄駅周辺をはじめ、市内中心部の各所に極めて高密度に設置されている。利用料金は時間に応じた料金体系となっており、また、高頻度の利用者向けには会員制度もある。

利用者数は月により大きく異なるが、目安としては1日のべ2万人程度である。利用者の傾向は平日と祝祭日で大きく異なり、平日は会員の利用者が非常に多く、郊外部から出勤してきたビジネスマンが会社の少し手前のターミナル駅で電車を降りた後、ターミナル駅から職場までの間を自転車で通勤するといった形で利用されている。祝祭日は、観光客等、非会員の利用が多く、観光地や大きな公園周辺のDocking Stationの利用が非常に多い。

また、ロンドンでは日本と異なり、自転車の車道走行が徹底しているが、その分、狭い路上で自転車と自動車が錯綜する場面が頻繁に見られる。現状、ロンドン市内の一部では自転車専用道路はあるものの、大規模な自転車専用道路はない。そのため、現在、「Cycle Superhighways」として、ロンドン市内を東西・南北に走る2つの自転車専用道の整備が検討されており、今秋、パブリックコメントが募集されていた。
※参考:http://www.tfl.gov.uk/campaign/cycle-superhighway-consultations

2.事業の仕組み

事業の実施に向けてはまず初めにDocking Station の整備が必要である。Docking Stationそのものの整備はTfLが行うが、必要な土地は広域自治体であるロンドン市下の基礎自治体(Borough等)が確保し、無償でTfLに提供する。そのため、Docking Stationの設置場所及び数は、基礎自治体の意向に大きく左右される。ロンドン市では、市長の強い意向で本事業が始まったこともあり、これまでのところ、基礎自治体の強い協力のもと、土地の確保が十分に行われている。

運営は、TfLよりイギリス国内で官民連携事業を多く手掛けている警備会社「Serco」に委託されている。サービス内容の決定、Docking Stationの整備に係る許認可等についてはTfLが担当し、Docking Stationの建設、自転車のメンテナンス、問合せセンターの運営等はSercoが実施している。また、事業運営に係る費用は、契約上で規定されたいくつかの評価指標に基づき、TfLからSercoに対して行われる。

運営上、とりわけ苦労が多い点としては、Docking Station間での自転車台数の調整がある。利用者が任意のDocking Station間で手軽に自転車を利用出来ることが同サービスの根幹であるが、前述の通り、Barclays Cycle Hireでは、自転車はDocking Stationにしか停車できない。従って、Docking Stationにおいて自転車が全て貸出済の場合だけでなく、返却済の自転車で既に埋まっている場合にも、利用者にとっては利用上の不都合が生じる(返却出来ない場合には、利用者が近傍のDocking Stationを探すことを想定し、利用可能時間が15分間無料で追加となる。)。そのため、Sercoでは、日々、貸出需要の多いDocking Stationから少ないDocking Stationへと何十台ものトラックを使い、自転車の配置調整を行っている。 事業の収入は利用者収入に加え、ネーミングライツ(バークレー銀行が保持)により5年2,500万£の収入がある。ただし、それでも独立事業としてみると赤字であるが、この点は、事業の目的・公共交通としての位置づけが明確にされている。

3.まとめと日本への示唆

Barclays Cycle Hireは、日常の移動交通手段としての自転車利用の促進が、オリンピック・パラリンピックのレガシーとして位置づけられ、ロンドン市長の強いリーダシップの下で実際の取組が図られた為に実現が可能となった。また、数km程度の短距離での移動を主要な需要と想定してロンドン市内の特定のエリアにDocking Stationを高密度で多数設置し、かつ自転車を含めたこれらの管理運営を単独の運営主体に担当させたことが、同サービス成立の鍵と言える。

同様の仕組みの導入を東京や大阪といった我が国の都市部で考える場合、Docking Stationの用地確保は大きな課題となる。Docking Stationを高密度に設置することは、レンタサイクルの利便性を上げ、ひいては事業性の向上を図る上で極めて重要であるが、我が国では、ロンドンの様に路上スペースをDocking Stationに充てることは容易でない為、行政が単独で十分な数のDocking Stationを設置することは非現実的であると言わざるを得ない。そのため、Docking Stationの確保に向けては、民間事業者との連携が必須となる。連携先としては、例えば、コインパーキング、コンビニエンスストア、ガソリンスタンド等が考えられる。また、類似の取組については、小規模なものは既に全国各地で多数存在しているため、ロンドンのような大規模なシェアサイクル導入に際しては、こうした既存の取組もベースに仕組み作りを進めることがより効率的な事業実施につながると考えられる。

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