ロンドンにおけるオリンピック/パラリンピック大会会場の今

2015/03/05 本橋 直樹
スポーツ

当社内横断的組織「日本2020戦略室」のご紹介

2020年の夏季オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決まり、大会企画運営、施設整備、会場周辺のまちづくり、海外からの観光客誘致、スポーツ振興、各種キャンプ地誘致等、さまざまな取り組みが動き始めています。当社は、多様で幅広い専門性を持つ研究員や、外部専門家とのネットワークを活用して、関係者の皆様の取り組みをお手伝いいたしております。
*「日本2020戦略室」は解散いたしました

はじめに

東京オリンピック/パラリンピックでは選手村に加え、37の総競技会場数のうち22会場を新設予定であり、うち11会場が大会後も継続利用される予定である(注1)。また、新設される選手村については2014年12月に東京都より「選手村 大会終了後における住宅棟のモデルプラン」が提示されており、総戸数約6,000戸の住宅、4階建ての商業棟1棟、学校等が整備される予定である。

こうした大会関連施設は「レガシー」として大きな役割を果たすことが期待されており、継続利用の方法や大会後の運用について今後早急な検討が必要である。

そこで、今回は、ロンドン大会における大会会場や選手村がどのように整備され、また、現在どのように活用されているかについて、当社が2014年9月に行った現地調査を踏まえ、紹介する。

1.ロンドン大会における大会会場

ロンドン大会における大会の中心となったのは、ロンドン東部に位置するストラトフォードに設置されたオリンピックパークである。

現在公園となっている部分だけでも200haを超える大規模開発が行われ、オリンピックパークには、選手村、大会のメインスタジアム、メディアセンターをはじめ、オリンピックの競技場及び関連施設が集約して建設された。

ロンドン大会を開催する目的の1つにロンドン東部の再開発があったこともあり、整備に当たっては、既存工場等を移転した上で、土壌や植栽の入れ替え、河川の改修、既存インフラの撤去と新設、電線の地中化といった大規模な土地の改良工事を行った上で、大会会場は整備された。また、ロンドン大会は「レガシー」を特徴としており、大会後の利用を最大限に考慮した上で、各種施設の整備・検討が進められた。例えば、会場内の橋の建設においても、大会後の利用ニーズの推計に基づいて恒久的に必要となる橋の数を決めた上で、大会時の一時的な交通需要に対応できるように、仮設による橋の追加設置や橋幅拡幅等による対応を行った。

2.オリンピックパークの今

オリンピックパークは、大会後、リニューアルされ、一定期間を経て2014年1月にQueen Elizabeth II Olympic Parkとして公園全体で再オープンした。公園は、フィールド・アスレチック等もある一大観光地となっており、多数の観光客や家族連れが訪れる場所となっている。

大会のメイン会場であったスタジアム
大会のメイン会場であったスタジアム
公園内各所にあるレガシーの紹介スポット
公園内各所にあるレガシーの紹介スポット

筆者撮影

メイン会場やCopper Box(卓球やハンドボールなどの会場)、Velo Park(自転車競技の会場)、Aquatic Centerといったスポーツ施設(注2)はもちろんのこと、オリンピックパーク内にはアートや文化関連の作品も多く存在している(注3)。子供向けの遊具施設やカフェも設置されており、広く楽しめる場所となっている。

中には運動器具も
中には運動器具も
フィールド・アスレチックは多くの子どもで賑わっていた
フィールド・アスレチックは多くの子どもで賑わっていた

筆者撮影

また、有料での観光ツアーも行われており(注4) 、同ツアーではガイドの案内のもと、公園内の各施設がオリンピック開催期間中どのような利用をされていたのか、現在どういった施設になるのかといったガイドを受けることができる。

公園内のインフォメーションセンター
公園内のインフォメーションセンター
ガイドツアーの様子
ガイドツアーの様子

筆者撮影

さらに、公園に隣接する旧選手村のエリアでは、約2,800戸の住宅へと転換され既に住民の入居が始まっている他、大会時にはバスケットボール会場があったその隣接敷地でも更に住宅整備が行われている。

大会時は川沿いにパブリックビューイングの会場があった
大会時は川沿いにパブリックビューイングの会場があった
住宅に転用されている選手村
住宅に転用されている選手村

筆者撮影

3.まとめ

今回紹介した通り、ロンドンのオリンピック会場及び選手村の「跡地」は、現在上手に活用されている。しかし、ここで特筆すべきは、現在のオリンピックパークの整備は東部ロンドンの再開発という大きな文脈に基づいたものであり、オリンピック/パラリンピックは、その推進に向けたカタリスト(触媒)として位置づけられていた点である。

そのため、東京での会場等の跡地利用の検討においても、単純にロンドン大会の跡地に誘致された個別の機能を取り上げ、例えば、ロンドンのように住宅と公園が一体となった家族連れが楽しめるスペースを作るべきであるといった議論をしても効果的ではない。

それよりも、ロンドンがオリンピック競技施設の開発をどのように都市開発につなげたのかから学ぶべきことは多い。特に、一体的なインフラの導入、大会後の需要を見据えた仮設施設・設備の導入等、計画段階から個別の施設や機能ではなく会場全体ひいては周辺地域の開発全体を見据え検討を進めた点は重要である。

日本においても、台場・青海地区の開発等、周辺の動きとの連携・バランスをとりながら検討を進めるとともに、今後30年を見据え、国、東京都として明確な方針を持ち取り組みを進める必要がある。


(注1)2013年1月に東京2020オリンピック・パラリンピック承知委員会が作成した立候補ファイルによる。その後、会場については整備費を圧縮するために見直しが検討されており、少なくとも、3会場については建設が中止された。
(注2)全ての競技の会場が残っている訳ではなく、例えば、バスケットボールの会場などは仮設競技場であり、すでに撤去されている。
(注3)詳細はhttp://queenelizabetholympicpark.co.uk/the-park/things-to-do/park-toursを参照。
(注4)公園内のアート作品をまとめたマップも作成されている。
http://queenelizabetholympicpark.co.uk/~/media/qeop/images/page%20specific/trails%20and%20tours/artinthepark_fieldguide_digital.pdfを参照。

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