1.大都市圏においても既に人口減少が進展
平成27年1月1日時点で総務省が取りまとめた住民基本台帳にもとづく人口によると、都道府県で人口が前年比増加しているのは埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、福岡県、沖縄県のみであり、三大都市圏といえども東海エリアは愛知県以外のすべて、近畿エリアは全府県が減少している状況にある。
全国から転入者が集まっているというイメージのある首都圏1都4県でも、市区町村別に見ると埼玉県、千葉県、神奈川県では過半の市町村が既に人口減少に転じており、大都市圏においても一部の都心エリアを除けば既に人口減少となっている市区町村も多くなっている。
ここでは、大都市圏において特に厳しい人口減少に直面し、迅速かつ的確な取り組みにより短期間でこれを改善した事例として横須賀市を取り上げ、そこでどのような課題に対しどのような対応策がなされたかを紹介する。
2.事例:首都圏にありながら転出超過数全国ワーストワンだった横須賀市の対策と成果
■事例の概要
神奈川県横須賀市は、大都市圏の人口減少地域においても、特に厳しい人口流出に見舞われた地域である。住民基本台帳人口移動報告によれば、横須賀市は人口増減のうち社会的な要因によるものを指す転出入において、平成25年の1年間における転出超過数が1,772人で全国ワーストワンであった。こうした状況に対して横須賀市では強い危機感をもち、緊急対策を総合的に行った結果、翌年の平成26年には1年間の転出超過数を半減させることに成功した。
図 全国市町村の転入超過数
資料)総務省「住民基本台帳人口移動報告」より作成
■横須賀市における転出超過の要因と対応の方向性
横須賀市はなぜこのような人口減少に見舞われたのか。横須賀市の資料によれば、横須賀市の転出者数の規模は近隣市町と同レベルであるのに対し、転入数が極端に少なく、これが転出超過数を大きくした要因であるとされている。また、その背景として、市外の人々から「住むまち」として必ずしも高く評価されていないことが課題となっているとされている。
そこで、結婚、子育て世代の転入を促進するための施策を体系的に強化する方針が打ち出された。具体的には、
- 「子育て・教育環境」のさらなる充実
- 「不動産環境」のさらなる充実
- 「都市イメージ」の創造発信
の3つの方向性に沿った施策の展開であった。
■具体的な取り組み内容
(1)の「子育て・教育環境」のさらなる充実では、小児医療から中学校の教育環境に至る多岐にわたる行政サービスにおいて、平成26年に何らかの具体的な拡充を行っている。一例を挙げると、小児医療では医療費助成を従来から実施していたが、その対象学年が平成25年10月には小学校2年生までだったものから平成27年10月までに段階的に6年生までに引き上げることとしている。
また(2)の「不動産環境」のさらなる充実では、中心市街地における固定資産税の減免や容積率の緩和などによる再開発促進、最低敷地面積要件の緩和や高度地区の廃止などによる民間建設投資の促進を図り、転入の受け皿となる住宅の供給や生活する場としての魅力を高める都市機能や雇用の場の集積を促進する取り組みを進めている。
さらに(3)の「都市イメージ」の創造発信では、転入者増を目指して、市の情報を知る機会が少ない市外の住民に対し、(1)(2)で行う取り組みの成果を含め、市の生活の場としての魅力に対する認知度と評価を高めるため、市外の駅や住宅展示場でのキャンペーン、企業へのセールス活動など市外居住者へのプロモーション活動を積極的に展開している。
■取り組みの成果
こうした取り組みの効果は既に出始めており、平成26年1年間の転出超過数は899人と前年と比較して半減し、順位もワースト1位から17位にまで改善している。このように短期的に効果が出たのは(2)の「不動産環境」のさらなる充実により転入の受け皿となる大規模な住宅の供給がなされたことが大きいと考えられるが、それがストレートに転入増に結びついたことは、(1)(3)による魅力の充実とその認知度向上に係る取り組みを併せて行ったことも有効であったと考えられる。
3.大都市圏の人口減少地域における地方創生への取り組みの方向性
既に述べた通り、大都市圏においても横須賀市のように現時点で人口減少傾向にある地域は多い。さらに、今後、団塊ジュニア世代が40歳代となり、出生数の急速な減少により全国的に人口減少が加速する中で、大都市圏の人口減少地域は、雇用の場と都市機能が高度に集積する都心地域に隣接しているため、これまで以上に転出超過が拡大する懸念も少なくない。
大都市圏では地方都市と異なり、交通利便性が高く職住は必ずしも一体ではないため、自地域内での雇用創出が単純に人口増に結びつかない可能性もある。このため、横須賀市のように「住むまち」としての側面をより重視し、子育て支援を中心とした生活の場としての魅力を高めるとともに、転入の受け皿となる適切な住宅供給を促進することが大都市においてはより有効と考えられる。全国的に見れば低い水準にとどまっている出生率を改善する観点からも、こうした「住むまち」としての環境の充実と、それへの住民の認知と評価を高める取り組みが重要であると考えられる。
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