2020年以降の温室効果ガス削減の枠組みについての考察(2)

2016/09/12 川島 一真
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パリ協定の採択を踏まえた2020年以降の温室効果ガス削減の枠組みについて、第1回目ではパリ協定における温室効果ガス削減(緩和)の国際的な枠組みに着目したが、第2回目の本稿では、現在の削減対策が抱える問題点について論じる。

強化が求められる削減対策

第1回目でも述べた通り、各国はCOP21に先立ち将来の温室効果ガスの削減目標の草案(Intended Nationally Determined Contribution:INDC)を国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出しており、これがまずは将来の温室効果ガス削減に向けた第一歩となる(注1)。ただし、2℃目標の実現に向け現在各国が提出している目標では削減量が足りないことが各種機関のレポートで示されている。例えばUNFCCCが2016年5月に公表した「Aggregate effect of the intended nationally determined contributions: an update(注2)」では、2030年で152億tCO2の削減(注3)が不足していると報告している。これは日本の温室効果ガス排出量の10年分以上に当たる膨大な量である。パリ協定ではグローバル・ストックテイクの枠組みの中で各国は削減目標の更新・強化を行うことになるが(注4)、それにより必要とされる削減量のギャップを埋めていくことが期待される。

エネルギー起源CO2以外のガス削減の重要性

現在、先進国が自国の排出量をUNFCCCに報告する上で算定する対象となっているのはCO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3の7種類の温室効果ガスであるが、削減対策の中心は最も排出量が多いCO2、特に化石燃料の燃焼により発生するエネルギー起源CO2を対象としたものとなっている。エネルギー起源CO2削減対策の中心は、省エネ実施や再生可能エネルギー導入などである。
「温室効果ガス=エネルギー起源CO2」というイメージが強いが、その他のガスについても排出量は小さくはない。IPCCの第5次評価報告書(第3作業部会)によると、2010年の世界の温室効果ガス排出量のうちエネルギー(化石燃料)及び工業プロセス(注5)起源CO2は全体の65%であり、林業及びその他の土地利用起源CO2及び他のガスが残りの35%を占めている。


図 温室効果ガス排出量のガス別内訳(2010年)
(出典)IPCC「第5次評価報告書(第3作業部会)Summary for Policymakers(注6)」よりMURC作成

 しかし、第1回で述べた通り、各国のINDCでは全ての温室効果ガスをカバーしておらず、途上国では削減目標の対象とするガスが欠ける例が目立っている。上述のUNFCCCの報告書によると、CO2は97%の国が削減対象としているが、CH4は80%、N2Oは77%であり、HFCs等のその他のガスについては50%以下となっている。世界全体での大幅な温室効果ガス削減には、現在削減対策が講じられていないガスに対しても削減対策を実施していく必要がある(注7)

増加が懸念されるHFCs

現在の排出量はCH4、N2Oより少ないが、途上国を中心に今後大幅な排出量の増加が懸念されるのはHFCsである。HFCsは冷凍空調機器の冷媒などに使用され、冷凍空調機器の使用時や廃棄時などに大気中に放出される。オゾン層を破壊するフロンガスの代わりとして普及が進んできたが、温室効果がCO2の10倍程度~1万倍以上にもなる温室効果ガスである。今後冷媒としての需要が伸びると予想される途上国を中心にHFCsの排出量も増加することが見込まれるが、日本でも排出量は近年増加傾向にあり、2014年度の排出量は2005年度の3倍程度に達し、既にCH4やN2Oの排出量を上回っている(注8)
フロンガスは1987年に採択されたモントリオール議定書において生産・消費の規制が行われ排出削減が進んだが、規制のないHFCsについても排出抑制を求める声が高まっており、現在モントリオール議定書の枠組みでHFCsの排出削減を進めるための議論が行われている。先頃開催されたG7の環境大臣会合においても、モントリオール議定書改正の今年の採択を目指すことが確認されている。

全てのガスを対象とした削減対策の強化を

HFCsだけではなく他のガスについても削減対策をさらに講じていく必要がある。食料生産を行う農業から排出されるCH4やN2Oなどは生産活動自体を抑制しての削減は困難であるが、一方で削減技術の研究開発が進められている。各国が各種施策や技術開発を総動員し、世界全体で必要な削減量を達成するため対策強化をしていくことが望まれる。


(注1)日本の目標は2013年度比で26.0%削減(2005年度比で25.4%削減)。
(注2)http://unfccc.int/resource/docs/2016/cop22/eng/02.pdf(2016年8月29日確認)
(注3)幅で示された削減量の中央値。
(注4)詳細は第1回参照。
(注5)工業プロセス起源のCO2にはセメントの製造工程などで排出されるCO2が含まれる。
(注6)http://ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar5/wg3/ipcc_wg3_ar5_summary-for-policymakers.pdf(2016年8月29日確認)
(注7)加えて、現在削減対象となっているガスでもエネルギー起源CO2以外は削減対策が少ない傾向にある。
(注8)2014 年度(平成26 年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について(環境省)http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2014_kakuho.pdf(2016年8月29日確認)

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