国際的な気候変動対策からみた台湾
台湾は2,340万人と日本の約1/5の人口を有し、一次エネルギー消費量は日本の約1/4、CO2排出量は世界全体の0.8%を占め(世界20位台前半)、国際レベルでは温室効果ガス排出大国の一つと言える。その一方、台湾は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国ではないため、気候変動対策に関するUNFCCC下での公式な国際協力スキームや温室効果ガスの算定報告審査制度等の国際枠組みからは除外されている状況にある。
台湾自体が国際的に明確な義務を負っていないため気候変動対策をないがしろにしているかというと、そういう訳でもなく、国際政治的に不安定な状況にあるが故、逆に他国と同等の取り組みを実施することに対する機運は高く、排出量の算定結果や政策に関する情報を含めた国別報告書の作成、国別排出削減目標の公表、一定排出規模以上の事業所における算定報告及び削減制度の導入、温暖化対策に関する国内法の制定等、少なくともUNFCCCの非附属書Ⅰ国のトップクラスに近い気候変動に対する取り組みが実施・計画されている。
2015年に気候変動に対する基幹法の策定及び国際社会に向けた排出削減目標を公表
台湾の気候変動に関する特徴的な動向として、2006年に台湾国内での温室効果ガス排出削減の取り組みを定めた法案が作成され、2015年に「温室効果ガス削減量および管理法(溫室氣體減量及管理法)」として正式に立法化されたことがある。同法では、台湾における長期排出削減目標、緩和活動、適応活動を含む気候変動対策の大枠を定めており、排出削減手段として、最終的には国内におけるキャップアンドトレード型の排出量取引制度を導入することやグリーン成長の促進などが言及されている。
また、2015年には、年末にパリで開催されたCOP21に合わせて「①2030年のGHG排出量を2005年比20%削減(成り行きの予測排出レベルから半減に相当)、②長期目標として2050年までに2005年比50%以上削減」とする台湾の排出削減目標も発表されている。なお、2016年8月に温室効果ガス排出量の推計・報告等の取りまとめに関する意見交換のために、当社に来日した台湾工業技術研究院グリーンエネルギー・環境研究所の研究者によれば、台湾国内のエネルギー専門家・産業関係者間では、2020年頃まで排出量増加は避けらない見通しで、そこから反転をして2005年比で排出量半減を目指すとする長期目標の達成は難しいとする見解がほとんどであること、トップダウン的に作成された目標のため、具体的な排出削減対策の道筋の明確化が課題であること、などの補足説明があった。
今後の台湾の気候変動対策の取り組みの見通し:特に再生可能エネルギーに力を入れる
台湾は日本と同様に比較的狭い国土に産業が集約する経済状況であることから、温室効果ガスの大半がエネルギー起源CO2排出量となっており、排出削減を進める上では、このエネルギー起源CO2分野での対策を避けて通ることはできない。現在の台湾の電源構成は火力63%(石炭火力が34%、石油火力が2%、天然ガス火力27%)、原子力17%、水力3%、再生可能エネルギー1%、コジェネレーション16%となっている。
台湾では、2016年1月の総統選挙の結果、環境問題を重視する民進党が政権の座に就くこととなり、同年5月に蔡英文政権が発足した。民進党の党是は脱原発であり、蔡英文総統自身も2025年までの脱原発を掲げているものの、わが国の状況からも推測できるように、原発の稼働・停止に関する総意は容易に形成されるものではなく、明確な方向性をもって動き出すには相当なハードルがある状況と言える。他方、蔡英文政権は、再生可能エネルギー(特に風力と太陽光)を積極的に推進することを打ち出しており、2025年までに(水力を含む)再生可能エネルギーの発電比率を20%まで増やすとする政策目標を立て、海外からの積極的な投資も呼びかけている。
現台湾政府はグリーン産業の発展を主要な政策の一つと位置付けており、再生可能エネルギーの導入・普及については、ここ数年の間にかなり本腰を入れた取り組みが進められると考えられる。
【参考文献】
EDMC/エネルギー・経済統計要覧2016年版
台湾行政院環境保護署(2015)「Submission by Republic of China (Taiwan), Intended Nationally Determined Contribution」
台湾行政院環境保護署(2015)「Greenhouse Gas Reduction and Management Act」
Hui-Chen Chien(2016) 「Taiwan’s Climate Change Policies: Toward a Common Future」
一般財団法人日本エネルギー経済研究所(2014)「平成25年度電力系統関連設備形成等調査事業(国際連系に関する調査・研究)報告書(平成26年3月)」
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