オープンイノベーションと地方公共団体が提供可能なインセンティブ

2019/03/07 中田 雄介
オープンイノベーション
自治体
スタートアップ

昨今、民間企業や大学などの様々な主体が、新たなテクノロジーの社会実装に向けた実証実験を活発に行っている。こうしたトレンドを受け、地方公共団体のなかにも、将来的な「企業誘致」あるいは「社会課題・地域課題の解決」などを目指し、オープンイノベーションに関する提案募集、実証実験に関する提案募集を行う団体が増えつつある。
一般に、ベンチャーキャピタルや大手メーカー(CVC:Corporate Venture Capital)などが行う新事業提案の募集では、募集・選定側が採択後の投資などを見据えたものとなっている。一方、地方公共団体が行う企業からの提案募集では、採択後、多額の経済的補助を実施することは少ないことから、応募事業者側に提示できるインセンティブは、(a)行政が所管する施設などを活用した実証実験の機会提供、(b)ワンストップによる各種調整・手続きの支援となる。また、上記(a),(b)についても、企業からの提案を受けた後、行政機関は提案主体に寄り添い事業化などに向け伴走支援を行うものの、地方公共団体においてオープンイノベーションなどに係る事業を所管する部署は産業振興などを担当する部署が多いことから、例えば、医療分野、教育分野などに関する事業化提案が寄せられた場合、所管を超え、早期に実証実験の実施場所・機会を確保・提供することは現実的には難しいのが実情である。
こうしたなかで、経済産業省などが「地方版IoT推進ラボ」の1つとして選定した横浜市(I・TOP横浜)では、2019年2月に新たに「I・TOP横浜ラボ」を立ち上げ、横浜の社会課題・地域課題を踏まえ、分野・領域(テーマ)をあらかじめ設定した形で、企業から事業提案を募集する新たな取組を開始している。横浜市の資料では、提案採択後、事業者側が早期に実証実験を行い、事業計画のブラッシュアップを実施することができるようにするため、①横浜市が募集開始前に実証実験フィールドを調整・確保している点、②開発中あるいは事業化に向け検討を進めている製品・サービスの一定の具体化を提案主体に求めている点が、「I・TOP横浜ラボ」の特徴として挙げられている。

<I・TOP横浜ラボの特徴>

募集する分野・領域
  • 横浜の社会課題・地域課題を踏まえ設定
  • 企業提案を受けた後に対応可能な支援を検討するのではなく、企業ニーズの高い検証実験の実施に係るフィールドの調整・確保を事前に市が済ませた後、提案を募集
支援のゴール
  • 実証実験の実施結果を踏まえた製品・サービスの検証や、事業計画の妥当性の検証が一定程度進んだ段階
提案主体のインセンティブ
  • 製品・サービスの検証、事業計画のブラッシュアップに向けた実証実験の早期実施
    (実証実験の実施に関わるファストパス)
I・TOP横浜ラボ
第1弾提案募集

(出典)横浜市資料「I・TOP横浜ラボ始動!」

今後、各地の市区町村が域内・組織内に抱える資源(事業化を目指す民間事業者が活用できる「実証実験」や「テストマーケティング」の場所・機会など)を開放し、早期に製品・サービスの検証や事業計画のブラッシュアップを行う機会を民間事業者に提供する枠組みが拡大していくことにより、地方公共団体がオープンイノベーションにおいて果たす役割も、より明確化・具体化していくと考えられる。

※弊社は「平成30年度「I・TOP横浜」プロジェクト創出等推進事業業務」の受託事業者として、IoT等を活用した”横浜発”の新たなビジネスの創出、社会課題の解決に取り組んでいます。

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