医療機器の海外展開を支援するわが国の各種施策の概観

2019/05/08 村井 佐知子
医療福祉政策
ヘルスケア

医療機器産業は、わが国の成長産業のひとつとして位置づけられ、医療機器産業参入等の取り組みが全国的に活発化しているところである。医療機器を製造販売する際、しばしば抱えられる課題に「海外市場への展開」がある。本稿では、そうした課題を抱える企業の一助としていただくべく、国や自治体が提供する海外展開支援施策をまとめた。

(注意)本稿は2019年4月時点の公表データに基づき整理したものです。実際に支援策の利用を検討される際には、内容に変更が生じている場合があるので、各省庁・外殻機関のホームページなどで直近の情報をご確認ください。本稿が皆様の一助となれば幸いです。

■経済産業省による支援施策

経済産業省により実施されている、医療機器の海外展開に活用可能な主な支援施策を表1にまとめた。個別の医療機器開発プロジェクトを対象とした支援のみならず、日本企業のビジネス環境整備や貿易・投資の活性化といった大きな視点での支援が行われている。

表1 経済産業省による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
医療・介護のアウトバウンド推進に向けた支援 「ビジネス」としての医療機器・サービスの輸出促進を図る事業。関係省庁と連携して推進される。支援メニューは、実証調査事業(補助金)、官民ミッションの各国への派遣等、ヘルスケア市場環境に関する調査、研究会など。
【参考URL】
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/iryou/outbound
医工連携事業化推進事業 わが国の高度なものづくり技術を活用し、医療機関等との医工連携により行う、臨床ニーズ主導的な医療機器の開発・事業化の支援を行う事業。日本医療研究開発機構(AMED)を通じて補助金を交付。対象はものづくり中小企業、製販企業、医療機関等の共同体(コンソーシアム)など。(平成26年度~継続実施)
【参考URL】
H31年度事業:https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2019/pr/ip/shosa_05.pdf
医療機器開発支援ネットワーク伴走コンサル事業 医療機器開発・事業化に関わる知見・ノウハウを活用した「伴走コンサル」により、切れ目のない支援を実施し、技術力のある我が国の中小企業・ベンチャー・大学等による医療機器の開発・事業化を促進。支援項目に海外展開支援が含まれる。医療機器の事業化を検討しているプロジェクトが支援対象。(平成26年度~継続実施)
【参考URL】
H31年度事業:https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2019/pr/ip/shosa_05.pdf
技術協力活用型・新興国市場開拓事業(制度・事業環境整備事業) 新興国における日本企業のビジネス環境の整備や、同国との貿易及び投資を活性化するための事業。日本の経済発展を支えてきた制度やシステム等を新興国に移転するために必要な、新興国の人材育成(研修・専門家派遣)等を行う。対象は公募要件を満たす者。(平成28年度~5年間の事業、継続実施)
【参考URL】
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2018/pr/ip/keikyo_03.pdf
H31年度事業:https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2019/k190121003.html

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■中小企業庁による支援施策

中小企業庁により実施されている、医療機器の海外展開に活用可能な主な支援施策を表2にまとめた。主な支援対象は中小企業である。

表2 中小企業庁による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
JAPANブランド育成支援事業 中小企業の新たな海外販路開拓を支援するための事業。
複数の中小企業等が連携し、自社の持つ素材や技術の強みを踏まえた戦略の策定支援を行い、その戦略に基づいて行う商品開発や海外展示会出展等の取組に対する支援を行う。
支援対象は、商工会、商工会議所、組合、NPO法人、中小企業者(4社以上)等。
(H16年度~継続実施)
【参考URL】
https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/japan_brand/
H31年度事業:
https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/japan_brand/2019/190218Jbrand-koubo.htm
海外ビジネス戦略推進支援事業 海外市場に活路を見出そうとする中小企業や小規模事業者を対象に、海外展開に向けた戦略策定や販路開拓を支援するため、F/S(実現可能性調査)、Webサイトの外国語化などを支援する事業。
(H27年度~継続実施)
【参考URL】
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/index.html
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2018/180627business.html
中小企業海外展開支援施策集 中小企業が利用できる海外展開に関する支援施策を、海外展開実現までのステップに合わせて段階別に紹介する手引書を作成。2019年版では関係政府機関の127施策を紹介。
【参考URL】
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2019/190422kokusai.pdf

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■特許庁による支援施策

特許庁により実施されている、医療機器の海外展開に活用可能な主な支援施策を表3にまとめた。医療機器に限定しない分野横断的な支援メニューであり、中小企業による医療機器関連特許の外国出願や、海外での権利侵害などへの対応などを行っている。

表3 特許庁による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
中小企業等海外侵害対策支援事業 中小企業の海外での適切な権利行使を促進するための事業。
ジェトロを通じて、海外で取得した特許・商標等が侵害されている中小企業に対し、
模倣品の製造元や流通経路等を把握するための侵害調査や、調査結果に基づく模倣品業者
への警告文作成、行政摘発、税関差止申請、模倣品が販売されているウェブページの削除等を実施し、その費用の一部を助成する。(H26年~H30年度の5年間事業)
【参考URL】
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_kaigaishingai.html
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2018/pr/to/tokkyo_16.pdf
中小企業等外国出願支援事業 中小企業の戦略的な外国出願を促進するため、外国への事業展開等を計画している中小企業
等に対して、外国出願にかかる費用の半額を助成する。窓口はジェトロと各都道府県等中小企業支援センター等。支援対象は全国の中小企業。
【参考URL】
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_gaikokusyutugan.html

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■日本貿易振興機構(ジェトロ)による支援施策

ジェトロでは、ヘルスケア分野に特化した支援策1と、分野を限定しない各種支援サービス2を組み合わせて、ヘルスケア分野の海外展開支援が行われている(表4)。これらの支援は医療機器の海外展開においても活用できる。主な支援策は以下のとおりである。

表4 日本貿易振興機構(ジェトロ)による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
新輸出大国コンソーシアム 海外展開に関心のある中堅・中小企業に対し ワンストップの支援サービスを提供。支援者は、企業の海外展開を支援する全国の支援機関が担当。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/consortium/
海外展示会/国内商談会等 国内外で開催される見本市や展示会を通じて、日本企業のビジネスチャンスの拡大を支援するための事業。海外見本市のジャパンブースへの出展支援を実施。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/tradefair/
国内専門家によるヘルスケア分野海外展開相談サービス サービス分野、ヘルスケア分野で現地販路開拓等を目指し企業に対し、ジェトロの専門家が、訪問やE-mail等を通じて継続的に活動をサポート。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/export2.html
海外コーディネーターによる輸出支援相談 ジェトロが海外に配置する各分野の専門家(海外コーディネーター)が、海外ビジネス展開に関する問い合わせに対し、現地で体感する感覚や目線で回答・助言。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/case_study/service/coordinator.html
知的財産保護関連サービス
模倣品・海賊版被害相談窓口 模倣品・海賊版問題の相談を無料で実施。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/ip.html
中小企業等海外侵害対策支援事業 ・模倣品対策支援事業:海外での知的財産権の侵害調査等にかかる費用の2/3を助成
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/ip_service.html
・防衛型侵害対策支援事業:海外で知的財産権に係る係争に巻き込まれた際の係争費用の2/3を助成。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas.html
・冒認商標無効・取消係争支援事業:海外で冒認商標を取り消すため自ら提起する係争活動に係る費用の2/3を助成。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_trademark.html
・外国出願費用の助成(中小企業等外国出願支援事業) :外国出願にかかる費用の半額を助成。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_appli.html
・「地域団体商標」の国際展開支援:地域ブランドの海外展開を支援。
【参考URL】https://www.jetro.go.jp/services/tiki_support.html

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■中小企業基盤整備機構による支援施策

中小企業基盤整備機構では、分野横断的な各種支援サービスを通じて、医療機器の海外展開に活用可能な支援施策が実施されている(表5)。

表5 中小企業基盤整備機構による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
医療機器に関するASEANのCEOとの商談会 日本企業との連携を希望する海外企業の経営者(CEO)等を招き、海外展開を目指す日本の中小企業者とのマッチングイベントを国内で開催。マッチングは中小機構の専門家が支援する。
【参考URL】http://www.smrj.go.jp/doc/sme/181218ceomedical_04.pdf(H30年度)
海外展開に関する相談 海外ビジネスの専門家が、中小機構の全国の拠点で、海外展開に関するアドバイスを無料で行う。支援内容は、中小企業国際化支援アドバイス、展示会での出張アドバイス、海外展開セミナーなどが設けられている。
【参考URL】http://www.smrj.go.jp/sme/overseas/consulting/index.html

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■厚生労働省による支援施策の例

厚生労働省では、医療技術の国際展開という観点から、医療機器の海外展開に関わる支援を行っている。主な施策は表6のとおりである。

表6 厚生労働省による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
医療技術等国際展開推進事業
(国立研究開発法人国立国際医療研究センター)
国際的な課題やわが国の医療政策や社会保障制度等に関する有識者、わが国の医療従事者や
医療関連産業の技術者等を、関係国へ派遣、もしくは諸外国から医療従事者や保健・医療
関係者等を受け入れる事業。この取り組みを通じて、わが国の日本の医療制度に関する経験の共有、
医療技術の移転、高品質な日本の医薬品や医療機器の国際展開を推進。(H27年度~継続実施)
【参考URL】
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/kokusaitenkai/eiyo_dai6/siryou5.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/kokusaitenkai/eiyo_dai4/siryou04.pdf
H31年度事業:http://kyokuhp.ncgm.go.jp/activity/open/index.html
開発途上国・新興国等における医療技術等実用化研究事業 開発途上国では公衆衛生上の課題が日本と異なり、医療機器に対するニーズも日本とは異なる
可能性がある。そこで、相手国のニーズや価格水準に基づいた製品開発を支援するための
事業。開発途上国の臨床現場で、デザインアプローチを用いたニーズ発見、コンセプト作成、上市に必要とされる研究開発を支援。対象国は、特に本事業においては、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア等を想定。対象者は開発途上国や新興国向けの技術開発をして海外展開を目指す民間企業の研究開発を行う部門・部署、研究所等。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構に対する補助事業として実施。(H29年度~継続実施)
【参考URL】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokusai/index.html
AMED:https://www.amed.go.jp/program/list/02/01/007.html
H31年度事業:https://www.amed.go.jp/koubo/02/01/0201B_00060.html

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■東京都による支援策

医療機器の海外展開に活用可能な支援施策は国だけでなく自治体においても実施されている。たとえば東京都では、海外で開催される医療機器関連の国際展示会への出展支援や、医療機器の海外展開に資する人材育成プログラムなどを実施している(表7)
なお、医療機器関連の国際展示会については、複数の地方自治体がパビリオンを設置して地域の企業の出展支援を行っているため、近隣の自治体にこうした支援メニューを確認されることをお勧めしたい。

表7 東京都による支援施策

施策名・事業名 概要・参考URL
「COMPAMED」を活用した海外への販路開拓支援 東京都内でメディカル・ヘルスケア分野に携わる事業者を対象とした、海外での販路開拓に係る支援事業。ドイツ・デュッセルドルフで開催される国際医療機器技術・部品展「COMPAMED」に東京都パビリオンを設置し、東京都パビリオン内での出展企業を募集し、支援を行う。
【参考URL】(※2018年度の支援内容)
https://www.sekai2020.tokyo/20180308_compamed/
「ARAB HEALTH」を活用した海外への販路開拓支援 東京都内でメディカル・ヘルスケア分野に携わる事業者を対象とした、海外での販路開拓に係る支援事業。中東および北アフリカ地域最大級のメディカル・ヘルスケア関連展示会「ARAB HEALTH」に東京都パビリオンを設置し、東京都パビリオン内での出展企業を募集し、支援を行う。東京都中小企業振興公社を通じた事業。
【参考URL】(※2018年度の支援内容)
http://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/1711/0008.html
医療機器開発海外展開人材育成プログラム 東京都が国立国際医療研究センター病院との連携で推進する、医療機器の海外展開に資する人材の育成を目的としたプログラム。平成31年度に第5期のプログラムの開講を予定している。
【参考URL】https://ikou-hub.tokyo/contents/news/kaigai_jinzai_program_5/

出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

 

■おわりに

医療機器は規制産業である。医療機器の規制の内容は国によって異なることから、海外市場への展開を行うにあたっては、当然、現地の法規制に対応する必要がある。このほか、現地の商慣行、流通構造の把握、現地ディーラーとのネットワーク構築、現地医療機関・医師との関係構築など多面的に課題を解決していかなければならない。
こうした課題をより効果的かつ効率的に解決していくうえで、自社が保有するリソースに加え、外部から資金や知識・ノウハウ、人脈などを総動員することはきわめて有益である。そのために、国や自治体による各種支援の活用を検討してはいかがだろうか。

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