「再生医療」とは、細胞や人工材料を利用することで、障害を受けたり失われたりした、からだの機能の再生を図るものである。
近年、”生きた細胞”を用いた再生医療は、京都大学の山中伸弥先生らが世界に先駆け開発し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「iPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)」などもきっかけとなって世の中の関心を集め、これまで治療法のなかった疾病や怪我などに対して、新しい医療を実現する可能性が期待されている。一方で、再生医療は新しい技術であるため、社会的に受容され実現化されるまでには、安全性や有効性、品質などを確保しながら臨床応用を推進できる環境を整備するとともに、当該技術への市民の理解を醸成する必用がある。そこで本稿では、「再生医療」に関わる法整備の最近の動向や、情報発信の動向についてまとめた。
■再生医療にかかわる法整備の状況
ここでは特に、“生きた細胞”を用いた再生医療の安全性等の確保に関わる法整備と最近の動きを整理する。
世界に先駆けて、再生医療を推進するための法律「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(通称:再生医療法)」が平成26年11月に施行され、わが国における再生医療等の提供の際の安全性確保に関する手続きや、細胞培養加工の外部委託のルール等が定められた。これによって、安全な再生医療を迅速かつ円滑に提供するための仕組みが整えられた。平成31年4月には、再生医療法施行から4年間の経緯や実績、臨床研究法の施行(後述)を踏まえて、同法の改正省令が施行された。これを受けて、改正省令に沿った形で再生医療の提供を行うための対応が、再生医療等提供機関(医療機関)などで進められているところである。1
薬や医療機器の安全基準を定める「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法、改正薬事法)」は、再生医療法と同時期の平成26年11月に、薬事法等の一部を改正する法律として施行された。これによって、「再生医療等製品」の特性に応じた早期承認制度が導入され、より迅速に、臨床現場へ再生医療等製品が届けられる仕組みが整えられた。2
平成30年4月1日に施行された「臨床研究法」では、臨床研究の実施の手続きや適切な審査、資金提供に係る情報公開などのルールが定められた。臨床研究として実施される再生医療については、これらのルールを遵守することも求められるようになった。3
1 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html
2 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045726.html
3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000163417.html
わが国では、これらの法整備を通じて、再生医療を安全に、信頼性を確保しながら推進するための環境の構築が進められているところである。
■再生医療に関する情報の入手手段
再生医療に関する情報は、関係省庁や外郭機関、学術団体、大学研究機関、医療機関、企業などにより、研究から治療まで、様々なステージの情報が発信されている。 ここでは、特に、前述の法整備に関わる政府機関による情報提供と、市民を対象とした情報提供の動向について整理する。
①政府機関等による情報提供
関係省庁・外郭機関などでは、前述の法令や関連の規則類・通知等、法令に基づき届出や承認が行われた再生医療に関する情報提供を行っている。主なサイトとしては、以下が挙げられる。なお、これらのサイトには、法令に基づき再生医療の提供や臨床研究を行いたい臨床機関、再生医療等製品の意実用化を図りたい事業者が必要とする各種手続きや根拠法令の情報のほか、一般向けの情報公開も行われている。
表1 政府機関等による再生医療に関わる情報発信サイト
情報提供主体・Webページ名 | 提供されている情報 |
---|---|
厚生労働省 「再生医療について」 |
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に関する法律・政令・省令・通知、法施行状況(認定再生医療等委員会、細胞培養加工施設、再生医療等提供計画の件数及び一覧) 等 |
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 「再生医療製品に関するおすすめのコンテンツ」 |
再生医療等製品に関する実用化手順、承認申請、承認情報、販売後の安全対策、等 |
国立保健医療科学院 「臨床研究実施計画・研究概要公開システム」 |
わが国で実施されている臨床研究の検索サイト。 臨床研究の名称、医療機関名、対象疾患、研究の進捗、所在地、等 |
出典:各種公開情報をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
②市民向けの情報提供
日本再生医療学会では、2019年3月22日に、再生医療に関する最新情報の集約と伝達を目的とした「再生医療ポータル」をオープンした。
再生医療に関心をもつ一般市民が再生医療を受けたい場合や情報を得たい場合、既存の情報ソースだけでは、専門用語の知識が必要であったり、関係各所に情報が分散していたり、検索条件が難しいもしくは検索できない等が理由で、目的とする情報にたどり着くことが難しい状況にある再生医療技術の多くは発展途上にあり、国が有効性・安全性を審査して承認したものや条件つきで承認したもの(※再生医療等製品)は、2019年4月時点で7種類の再生医療等製品に限られている。また、現在国内の医療機関で提供されている再生医療の多くは、研究段階のものや、自由診療として行われている医療(有効性などが公的に確認されておらず、健康保険が適用されない診療)であるため、医師から十分な説明を受け、理解・納得した上で、自らの責任で、治療・研究に参加することになるため、注意が必要である。
こうした状況を鑑み、当サイトは、一般市民に正しい情報を提供し、冷静な判断を促すツールとして活用されることを目的として立ち上げられた。再生医療ポータルで入手できる情報は下表のとおりである。再生医療学会では、今後も、同サイトを通じた再生医療に関する情報発信や、情報の更新を行っていくこととしている。
なお、同学会では、患者やその家族、一般市民を対象とした相談窓口(https://nc.jsrm.jp/ppi/consultation/)も開設し、再生医療等をうける場合の注意事項の情報提供や、患者による自己決定の支援などを行っている。
表2 再生医療ポータル(https://saiseiiryo.jp/)での情報提供
情報提供項目 | 提供情報の概要 |
---|---|
再生医療について | ・再生医療の概要 ・承認されている再生医療等製品(一覧) ・再生医療(治療)を受ける際の注意事項 ・承認情報 ・臨床研究・治験・先進医療情報 ・疾患情報 |
提供機関をさがす | 各医療機関が提出した「再生医療等提供計画」に基づく情報の検索メニュー。 ・地域での検索 ・診療科での検索 ・治療法での検索 ・病名での検索 ・部位での検索 ・治療・研究の区分での検索 ・フリーワード検索 |
用語集 | 主な再生医療関連用語の解説 |
ニュース | ・再生医療に関するニュース ・再生医療学会からのお知らせ |
FAQ | 再生医療についてよくある質問に関するFAQ |
出典:再生医療ポータル(https://saiseiiryo.jp/)をもとに、三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
市民を対象とした「再生医療」に関する情報発信やコミュニケーションの取り組みとしては、文部科学省「リスクコミュニケーションのモデル形成事業」や日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療臨床研究促進基盤整備事業」も挙げられる。これらの事業のなかで、「再生医療」に関する市民向けのシンポジウム公開講座や、「再生医療」に対する市民の理解・意識に関する調査研究事業などが行われており、再生医療技術の特徴や安全性、再生医療研究の最新動向などが情報発信されているほか、研究者等との交流なども行われている。
上記のように、再生医療については、技術の育成と安全な提供のための各種法整備・運用のための仕組みづくりと、当該技術に対する市民の理解・意識の醸成が同時進行で進められている状況にある。
本記事の続編では、現在国内で提供されている再生医療等を概観したい。
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