防災・減災対策を考えなおすシリーズ Ⅰ阪神・淡路大震災の教訓と、現在の防災・減災対策の概観

2020/07/16 平野 誠也
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<東日本大震災10年を前に防災・減災対策を考えなおすシリーズ>

2011年(平成23年)3月11日に東北地方太平洋沖地震による東日本大震災が発生してから、来年の3月でちょうど10年となる。また、翌4月は熊本地震から5年という節目の年となる。その後も、平成30年7月豪雨による災害、平成30年台風第21号による災害、令和元年房総半島台風(令和元年台風第15号)による災害など、水害・土砂災害も頻発している。さらに、令和2年の現在、新型コロナウイルスによる影響により、市民生活、経済活動などにも大きく影響を及ぼしている。
本シリーズは、このような時期に、様々な視点から行政、市民の防災・減災対策を見直し、これまで十分でなかった対策や、これから求められる新しい対策などについて提案することを目的としている。
本稿は、シリーズの第1回として阪神・淡路大震災の教訓まで立ち返り、大規模災害における変わらぬ教訓を振り返りつつ、この後の各レポートへとつなぐものとする。

1.阪神・淡路大震災の教訓

大規模災害が全国各地で起こるたびに、過去の災害の時と同じような課題が繰り返し指摘される。国際防災研修センターと人と防災未来センターが、平成20年3月に「阪神・淡路大震災教訓集」をとりまとめた。その教訓集の冒頭に、教訓をまとめたマトリックスがある。

阪神・淡路大震災教訓集の教訓マトリックス

(出所)阪神・淡路大震災教訓集(国際防災研修センター、人と防災未来センター)平成20年3月

http://www.dri.ne.jp/training/instructive

阪神・淡路大震災から25年が経過した今、対策が講じられ改善された教訓もあれば、近年の災害でも引き続き課題として指摘されるものも残っている。マトリックスの右側からいくつかを拾い上げて教訓の現状を概観する。

①「防災の観点の国家・地域政策への組み入れ」の視点

阪神・淡路大震災が国の防災対策の与えた影響は大きい。その表れの1つとして、防災基本計画の修正の履歴を見れば明らかである。同計画は、昭和34年に発生した伊勢湾台風をふまえ、昭和38年に策定され、その後、阪神・淡路大震災が発生した平成7年までの間、昭和46年に一度修正がされただけであった(内閣府 防災情報のページより)。その後、平成7年7月に全面修正がなされた後、平成20年2月まで概ね数年に1回のページで8回修正されている。さらに、平成23年に東日本大震災が発生してから令和2年5月までの10年間に12回修正されている。その他、南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法等の複数特措法の制定・改正や国土強靱化基本法の制定なども行われている。
地方公共団体では、同計画の修正等にあわせて、地域防災計画の修正や新たに業務継続計画、初動体制の強化に向けた職員初動マニュアルの作成やアクションカードの作成なども行われている。
全体として、計画やマニュアル等は、地方公共団体によって間隔にバラツキはあるが、一定期間ごとに修正・作成されるようになった。
問題は、その計画やマニュアルに記載されている内容が、必ずしも十分に検討されていないものもあるということであり、逆に教訓としてうまく継承されていない重要な点である。

②「まち」の視点

「まち」の視点の教訓は、災害発生直後から復興までの長期に亘るものが指摘されている。電気、ガス、道路等のインフラを担う民間事業者も含む対策がその後なされ、例えば高速道路、上下水道管、共同溝の耐震化等が進められている。復興施策については、例えば阪神・淡路大震災後の復興まちづくりについての課題も指摘されているところである。高速道路などの緊急輸送道路を、緊急通行車両のみ通行ができるよう規制が迅速に実施されるようになったのも阪神・淡路大震災以降である。阪神・淡路大震災の時に支援物資がなかなか届かないことが指摘されたが、その要因の一つは緊急輸送路の交通規制が十分でなかったことである。あわせて、物資拠点の運営についても多数の問題が指摘され、その後の新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震でも、ラストワンマイル問題として継続して指摘されているものである。なお、支援物資について、教訓の継承の難しさを痛切に感じた経験をしたことがある。東日本大震災後の支援物資を検討する中心担当者の問題意識は「阪神・淡路大震災の際はリダンダンシーが問題であった。拠点についてはあまり問題がなかった。」というものであった。実際には拠点運営にも大きな問題があったのだが、過去の資料を読み返しても緊急輸送道路のリダンダンシーだけが課題であったと認識されたようである。
「まち」の中で、災害廃棄物については阪神・淡路大震災でも重要な教訓として指摘されていたにもかかわらず、その後は他の分野と比較すると十分な検討はなされていなかった。東日本大震災において、津波堆積物を含む大量の災害廃棄物が発生し問題になった後、国、地方自治体においての検討・対策が進められるようになったが、平成30年7月豪雨や令和元年台風15号、21号による災害の際にも仮置場の問題が発生するなど、引き続き対策が求められている。

③「くらし」の視点

「くらし」の視点の教訓の多くは、ボランティアとコミュニティに関係しているものである。ボランティアについては、阪神・淡路大震災の際には多数の災害ボランティアが被災地を訪れ、被災者を支援した。ボランティアの重要性が認識されるとともに、問題点もあり、その後ボランティアセンターが各地で設置されるようになった。ボランティアとの連携は、災害応急対策では重要な役割を果たすようになった。
コミュニティについては、教訓の表にもある「自助」と「共助」の重要性が認識され、近年では、共助の計画の一つとして、地区防災計画の策定も進められているところである。避難所運営についても、行政任せではなく、避難者自身が避難所運営を行う必要があるという認識も定着しつつある。
ただし、現時点では、避難所や避難行動については、新型コロナウイルスの対策との両立が課題として指摘されているところである。

④「いのち」の視点

発災後72時間は人命救助を最優先するということが一般的にも定着してきていることや、阪神・淡路大震災後に発足したDMATが今では広く認知されてきていることなど、いのちの視点については、阪神・淡路大震災以後の複数の災害を通じた教訓が生かされている良い例である。
しかし、災害時要配慮者、避難行動要支援者、心のケアなど、被災者の生命と健康を守る活動に関する課題は多く、継続して対策がとられているところである。その中でもコミュニティ、ボランティアの力が重要であり、行政はその連携と地域力の強化を進めていく必要がある。
このため、人材育成が重要であり、従来のイベント型の総合防災訓練に加え、自治体職員を対象とした研修や実践的な訓練、住民を対象として研修や訓練も実施されるようになった。研修や訓練の中には、教訓の継承を目的としたものも実施されるようになってきている。

⑤「災害文化を育てるための基本事項」の視点

「災害文化を育てるための基本事項」は、今後も基本事項として継続される重要なものばかりであろう。このうち、「3 過去の災害の教訓を後世に継承し、あらゆる防災対策に生かしていくことが大切である」に関連して、やや古いが阪神・淡路大震災後20年の時に同震災の複数の被災自治体職員を対象としたアンケート調査結果がある。震災未経験職員の6割以上が自分の担当する災害対策業務の問題点や教訓を知らないと回答しており、教訓の継承の難しさが分かる。
その他の項目もあわせ、この基本事項を実現していくための平時の対策を今後も充実させていくことが重要である。

「現在担当する災害対策業務について、阪神・淡路大震災時の問題点や教訓を知っているか?」

(出所)阪神・淡路大震災に関する職員アンケート調査(弊社実施)

今回は、阪神・淡路大震災の教訓をもとに、防災・減災対策の教訓の継承と現在の対策を概観した。本シリーズの次回以降において、個別の課題について、レポートを連載していく。その際、新型コロナウイルス対策についての考察も可能な限り入れていきたい。

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