防災・減災対策を考えなおすシリーズ Ⅲ迅速な初動対応を実現!熊本県益城町アクションカード開発の取組

2020/08/11 吉成 絵里香
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1. はじめに

近年、大規模災害が頻発するなか、自治体の初動対応の重要性が数多く指摘されている。自治体の初動対応に必要な業務は、災害対策本部の立ち上げや、被害情報の収集整理、応援要請、住民への広報など多岐に渡る。大規模災害が発生した場合、下図のように、自治体では災害発生から短時間で膨大な応急業務が発生し、自治体の人的資源は絶対的に不足することから、想定される業務については庁内体制や役割分担、外部機関との連携などについて事前検討することが不可欠となる。

図 発災後に自治体が実施する業務
(資料)内閣府(防災担当)「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」

限られた時間の中で迅速に初動対応をするためには、勤務時間外に災害が発生した場合であっても、庁舎に参集した職員が、行うべき対策を迅速に実施することが必要である。これを具体的に示したものとして、熊本県益城町と弊社との共同研究により開発した「益城町アクションカード」の取組を紹介する。

2. 迅速な初動対応の実現に向けて:アクションカード開発の取組

2016年4月の熊本地震で甚大な被害に遭った益城町では、庁舎の被災や職員参集状況の未把握により初動対応が遅れたこと、避難者の人数・場所等の全容把握が困難であったこと、災害対策本部の要員であった職員も避難所業務等に追われ町役場が人手不足となったこと等が課題となった。
熊本地震の教訓を活かし、災害発生時の初動対応を強化することを目的に、熊本県益城町と弊社で平成30年度から「益城町アクションカード」を開発した。アクションカードは、最初に参集した職員から順番にとるべき行動を具体的に示したものである。アクションカードそのものは、いくつかの自治体でも作成されているものであるが、今回開発したアクションカードでは、「1時間以内に災害対策本部会議を開催すること」を目標として掲げ、その目標実現に向けた内容に特化している点が他にはない特徴である。また、自治体で策定される災害対応のマニュアルは、一般的に組織全体としての対応方針や役割分担を定めたものであるのに対し、アクションカードでは、役場へ参集した職員一人一人が迷わず対応をとれるよう、具体的な行動の指示を整理したものとなっている。

図 アクションカードイメージ
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

迅速な初動対応を実現するにあたっての、アクションカードの開発や運用のポイントは以下となる。

ポイント1  災害対応の経験がない職員にとっても、やるべき業務が一目で分かる

開発したアクションカードでは、役場の勤務時間外に地震が発生し、役場に参集した職員から順番にとるべき行動を示したものとなってる。普段の職務や災害対応経験有無によらず職員が災害対応業務を理解し実施できるよう、簡潔な文章やピクトグラムを用いて行動を記載している。

図 益城町アクションカード 勤務時間外発災初動活動総合版(第2版)
(資料)益城町と弊社の共同研究により作成

ポイント2 訓練での活用により対応力強化

開発したアクションカードは、抜き打ちの職員参集訓練で実際に活用することで、初動対応の定着を図っている。最初に登庁した職員が実施する初動リーダーの活動や、庁舎の安全確認、災害対策本部の設営といった業務でとる行動を、アクションカードで一つ一つ確認して実施することができる。
さらに、訓練でアクションカードを活用することで、カード自体の改良点も明らかとなり、令和元年度にはアクションカードのデザイン(ピクトグラム作成等)も含めて改良を行った。

ポイント3 避難所となる学校施設への応用・展開

町役場の庁舎で活用するアクションカードに加え、令和元年度には避難所となる学校施設向けのアクションカードの開発を実施した。大規模災害が平日の日中に発生した場合、学校では児童の安全確保を最優先としながら、迅速に避難所を開設することが必要となる。さらに、学校教職員、町職員、地域住民の協力による対応が重要となる。そのため、町教育委員会と津森小学校に協力いただき、地震発生時の学校施設の初動対応をアクションカードとしてまとめ、総合防災訓練での活用も行った。
市町村では災害対応の現場が複数の拠点に渡ることから、アクションカードを各拠点に応用・展開していくことで、地域全体で初動対応の強化を実現することができる。

3. 今後の大規模災害への備え

今後の大規模災害に備えていくにあたり、各自治体においては防災担当課以外の職員への意識づけや、継続的な訓練・研修を通じた人材育成が重要となる。災害対応の計画やマニュアル策定にとどまらず、アクションカードといった誰でも内容が理解できるようなツールを用いて行動の定着を図っていくことで、組織全体、ひいては地域全体での災害対応力向上につながることを期待したい。

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