社会環境の急速な変化に対応した自治体総合計画の方向性(後編)自治体を取り巻く政策課題の複雑化への対応

2020/08/19 大塚 敬
自治体経営

1. 自治体経営のマスタープラン、総合計画を取り巻く環境の変化(本稿の概要)

地方自治体を取り巻く環境はさまざまな側面で大きく変化している。本稿は、こうした環境変化に対し、自治体経営のマスタープランである総合計画において、特に留意すべき変化として①コロナ禍により厳しさを増す財政の将来見通しへの対応、②地域課題の複雑化に対応した住民等との連携強化、③関連性の高い国の政策との効果的な連携の確保の3点をとりあげ、前編では①の動向と対応の方向性を提示した。後編では、引き続き②③の最新動向と今後の課題について解説する。

2. 地域課題の複雑化に対応した住民等との連携の強化

(1)高齢化の進展など地域の課題の増大と多様化

従来から、地域の課題解決には行政だけでなく地域住民や地域で活動する団体、事業者など地域の多様な主体(以下、住民等)との連携と協働が重要であるとされてきたが、地域の課題が量的に増加するとともに複雑化、多様化する中で、行政のみで地域の課題に効果的に対応することがますます困難となっており、その重要性は今後一層高まると考えられる。
特に、今後いわゆる団塊の世代が後期高齢期に入ることとなるため(図表1)、増大する福祉サービス需要に対し適切に対応するには、行政と民間関連団体との連携やコミュニティによる支え合いなど、地域の総合的な体制づくりが不可欠である。こうした状況は子育て支援や防災、環境対策、多文化共生、防犯防災など様々な分野でも同様であり、総合計画の策定、推進において住民等との連携をいかに充実・強化するかが大きな課題となっている。

図表1 全国の高齢人口の将来見通し(出生中位、死亡中位)

(資料)国立社会保障人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」より作成

(2)住民等との連携強化に向けた自治体総合計画おける対応の方向性

①参加と協働の指針の提示と策定プロセスへの住民等の参加機会の充実

必要性や適合性が高い分野の個々の施策や事業においては、既に多くの自治体で住民等との連携・協働が進められている。これに対し、今後、自治体経営のすべての分野を網羅したマスタープランである総合計画に期待される役割として、住民等との連携・協働の指針となる考え方を提示することがより強く求められる。実際に、こうした背景から、郡山市の例(図表2)のように、総合計画を構成する計画を行政が責任を負う行政計画ではなく、地域の主体がそれぞれの立場で責任を負う公共計画として位置づける例も見られ始めている。

図表2 総合計画の一部を公共計画としている例(郡山市)

(資料)郡山市「あすまちこうりやま(郡山市まちづくり基本指針)」

また、総合計画で示される連携・協働の方向性が、担い手となる住民等の実態とニーズを反映したものとなるように、策定プロセスへの住民等の参加機会を充実することも重要である。特に、ワークショップや市民討議会、懇談会など、幅広い住民等が策定プロセスに直接参加し、具体的な取り組みを提案できる機会が重視されるようになっており、既に都道府県、市区の約7割がこうした直接参加機会を設置している(図表3)。今後こうした取り組みの実施と質の向上がこれまで以上に重要となると考えられる。

図表3 総合計画の策定プロセスにおけるワークショップ・市民討議会の実施状況

調査対象:全都道府県及び市区、回収数(率)52.6%
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「自治体経営に関する実態調査報告」(令和2年6月)

②策定への住民等の参加機会における感染予防への配慮とICT活用による新しい可能性の検討

本年度総合計画の策定に取り組んでいる多くの自治体は、新型コロナウイルス感染症の影響により、ワークショップなど策定への市民等の参加機会は実施自体が困難となっていると想定される。今後感染状況が安定し実施可能となった場合も、感染予防策に細心の注意が必要であり、人数や実施回数の抑制など、大きな制約となることは間違いない。こうした状況は抜本的な感染対策が確立されるまで来年度以降も継続する可能性が高く、これを他の参加手法で補う工夫が求められる。一方、こうした状況下で、必要に迫られる形でWEB会議などITを活用したリモート・コミュニケーション・ツールが急速に普及した。そこで、こうしたツールを活用した新しい参加手法の導入を積極的に検討することが求められる。

3. 関連する国の政策との効果的な連携の確保

(1)分野横断的な総合性を有する国の政策や計画の導入

総合計画は、自治体が取り組むすべての領域をカバーする最上位の計画であり、産業、福祉、文化など個別の政策領域ごとに策定される計画は、総合計画を踏まえた分野別計画として策定されるのが一般的である。その一方で、近年は、こうした分野別計画とは異なり、様々な分野を網羅した総合性を有する国の政策や、それに基づいて作成される新しい地域計画が導入されている。こうした計画と総合計画は、相互の関係を適切に整理しなければ、計画の策定や進行管理に係る事務の重複など非効率が生じることとなる。このため、これらと総合計画の関係をどのように整理するかが課題となっている。

(2)総合計画と分野横断的な国の政策、計画との効率的、効果的な連携の確保

ここでは、このような計画の代表例として、昨年度末多くの団体が改定時期を迎えたまち・ひと・しごと創生総合戦略と、近年急速に社会的な関心が高まっているSDGsを取り上げ、総合計画との関係に係る最新動向と今後の課題を整理する。

①まち・ひと・しごと創生総合戦略と総合計画の一体的な整理

地方自治体は、少子高齢化と人口減少の抑制と東京圏への人口の過度の集中是正を図り、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目的として、平成26年に公布・施行された「まち・ひと・しごと創生法」にもとづき「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定することとされている。各自治体は平成27年度前後を初年度とする第一期計画を策定しており、昨年度末までにさらに第二期計画を策定している。この際、第一期計画では都道府県、市区の約9割の団体が総合計画とは別に計画を策定したが、第二期計画ではその割合は55.2%に低下し、重点プロジェクトなど基本計画の一部を総合戦略とするケースを中心として、約3割が総合計画とまち・ひと・しごと創生総合戦略とを一体的な計画として策定している(図表4)。こうした自治体は、計画の策定にあたっては、事務の重複の少ない効率的な手法により策定したと言えるが、一方で最悪の場合にはまち・ひと・しごと創生総合戦略が形骸化するリスクもはらんでおり、今後は総合戦略、総合計画のいずれの趣旨も損なうことなく、それぞれの目的を十分に踏まえて、計画の推進とPDCAサイクルの確立による適切な実績評価と改善を行うことが求められる。

図表4 まち・ひと・しごと創生総合戦略と総合計画の関係

調査対象:全都道府県及び市区、回収数(率)52.6%
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「自治体経営に関する実態調査報告」(令和2年6月)

②SDGsの目標達成に向けた総合計画における取り組み

SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標であり、分野ごとに17のゴールと169のターゲット、約230の指標を設定し、その達成を求めている。我が国も2016年12月22日にSDGs実施指針を作成し取り組みを進めているとともに、地方自治体に対しても、SDGsに関する将来のビジョンの作成や総合計画等の既存計画とのマッチングなどを求めている1。こうした中、検討段階を含め都道府県、市区の約6割が何らかの対応をしている。このうち、既に取り組みを実施している団体の86.8%、検討中の団体の94.8%が既存の計画にSDGsの概念や要素、取り組みを盛り込むとしている(図表5)。
SDGsと既存計画とのマッチングは、地方自治体のすべての政策領域を網羅しているため多様な分野にわたるSDGSの理念や取り組みを網羅的に盛り込むことができ、最上位計画であることから地方自治体の政策全体に反映することができる総合計画を対象として行うことが望ましいと考えられる。このため、尼崎市の例(図表6)のように両者の関係をどのように整理し、SDGsの理念や取り組みを総合計画にどのように位置付けていくかは、今後全ての自治体にとって重要な課題となると考えられる。

図表5 SDGSへの取り組み状況と内容

調査対象:全都道府県及び市区、回収数(率)52.6%
(資料)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「自治体経営に関する実態調査報告」(令和2年6月)

図表6 総合計画におけるSDGs達成に向けた取り組み事例(尼崎市)
-SDGsのゴールの自治体行政における位置づけの例-

-ゴールの目標達成に寄与する総合計画の施策の例-

(資料)尼崎市「総合計画における尼崎市のSDGs達成に向けた取り組みの推進について」


1 自治体SDGs推進のための有識者検討会「「地方創生に向けた自治体SDGs推進のあり方」コンセプト取りまとめ2017年」(2017年11月2日)

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