新規30部門別温室効果ガス排出量の比較(1)

2020/08/24 森本 高司
気候変動
カーボンニュートラル

1. 温室効果ガス排出量算定結果における部門分類とガス

我が国からの温室効果ガス総排出量の最新値(2018年度値)は約12億4,000万トン(CO2換算)であり、温暖化対策の進展による効果もあって1990年度以来最低の水準となった1。パリ協定下の2030年における排出削減目標は2013年度比-26%であるが、基準年である2013年度排出量(約14億1,000万トン)と比較すると12%減少している。今年度(2020年度)の排出量は、コロナ禍による大規模な経済活動の停滞に伴って大幅に減少することが見込まれるものの、今後経済活動が再開するに従って排出量もリバウンドすることが想定される。目標である26%削減に向け、より一層の対策を進めていく必要がある。
この温室効果ガス総排出量は、膨大な数の排出源からの排出量をガス別に計算したうえで、それらを各ガスの温室効果を示す地球温暖化係数でCO2等量に換算し、合計することで算出されている。算定対象となっている温室効果ガスは、二酸化炭素(CO2)を始めとする7つのガスである。具体的には、CO2のほかに、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3))であり、環境省の公表資料においては、ガス別に主要な分野の排出状況が示されている2。また、算定対象の排出源は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成した温室効果ガス排出量算定方法の国際的なガイドラインであるIPCCガイドラインにおいて、温室効果ガスの排出メカニズムや排出源の特性、排出量の算定方法等を踏まえ、5つのセクターに分類されている。具体的には、1. エネルギー分野、2. 工業プロセス及び製品の使用分野(IPPU分野)、3. 農業分野、4. 土地利用、土地利用変化及び林業分野(LULUCF分野)、5. 廃棄物分野であり、我が国が気候変動枠組条約に提出している温室効果ガスインベントリにおいても、このセクター分類に基づいて排出量が整理・報告されている3
環境省の公表資料や温室効果ガスインベントリにおいては、上述のとおり温室効果ガスのガス別やセクター別に排出量が示されているが、温室効果ガスの発生元は同一の活動であり、これらが便宜上複数の排出源に分割され計上されているに過ぎない。例えば農業活動においては、農業機械の使用や温室の冷暖房等に化石燃料が使用され、CO2が排出されるとともに、家畜の消化管内発酵(げっぷ)やふん尿の処理、水田、肥料施肥等からCH4やN2Oが排出されている。これらの排出量は、前者はエネルギー分野における農業からのCO2排出として、後者は農業分野におけるCH4、N2Oの排出として別々に計上されている。同様に、セメント製造プロセスにおいては、セメント原料の焼成等に消費する化石燃料由来の排出はエネルギー分野における窯業・土石製品製造業のCO2排出として、原料である石灰石が熱分解されることによる排出はIPPU分野におけるセメント製造からのCO2排出として扱われている。
これらは、排出されるガスの種類や排出メカニズム等が異なるものの、排出の原因となる経済活動は同じであることから、排出量を分割せずに同一の排出源からの排出とみなすことも可能である。そこで本稿では、我が国の温室効果ガスインベントリにおける排出源別・ガス別の温室効果ガス排出量を、ガス種やIPCCで規定されたセクター分類に関わらず、表 1に示す30の部門に再集計した上で、改めて2018年度における温室効果ガス排出量の状況を概観してみることとした。
なお、化石燃料の燃焼に伴うCO2の部門別排出量に関しては、火力発電所や熱供給事業所等における発電や熱発生に伴って発生したCO2排出量を、事業用発電や地域熱供給部門にそのまま計上する「電気・熱配分前排出量」と、当該CO2排出量を各需要部門の電力・熱の消費量に応じて配分した「電気・熱配分後排出量」がある。ここでは、後者の電気・熱配分後排出量を分析対象とする。電気・熱配分前排出量を用いた場合の排出状況については、次回の記事で紹介したい。

表 1 新規に設定した30の部門分類

※部門別エネルギー起源CO2の排出量には推計誤差が存在するが、今回は集計対象外としている。

2. 新規部門分類における排出状況

2018年度における新規部門別排出量(電気・熱配分後排出量)を図 1に示す。本部門分類においては、家庭部門からの排出量が約1億6,600万トンで最大となった。他の部門は特定の業種やプロセスを対象としているのに対し、家庭部門は全ての国民の家庭におけるエネルギー消費が対象であり、排出活動に関係する人数が格段に多い以上、他部門に比べて排出量が大きくなるのはある意味必然かもしれない。しかしながら、エネルギー多消費産業で温室効果ガスの排出量が大きいと認識されている2位の鉄鋼業(約1億5,900万トン)や3位の化学工業(約1億1,200万トン)よりも排出量が大きいという事実は、温室効果ガス排出量の削減に向け、一人ひとりが省エネ行動を行い、エネルギー消費量を削減していくことの重要性を示していると言えよう。
家庭、鉄鋼、化学に続く第4位は乗用車(約1億500万トン)、第5位は貨物自動車(約7,800万トン)であり、道路輸送からの排出の寄与も比較的大きいことが分かる。続く第6位はセメント製造を含む窯業・土石製品製造業(約6,500万トン)、第7位は農林水産業(約5,000万トン)である。
農林水産業は、エネルギー消費に伴うCO2排出量は他業種に比べてそれほど大きくはなく、注目されることは少ないが、家畜や農地から排出されるCH4やN2Oの排出が大きいため、温室効果ガスの総量で見た場合は比較的排出量が大きい業種に該当する。近年、欧州を中心にビーガン(菜食主義者)が増えてきている背景には、家畜生産に伴う温室効果ガス排出を始めとした農業の高い環境負荷に対する懸念があり、今後、温暖化対策における農林水産業の重要性は高まっていく可能性がある。
この上位7位までの部門で総排出量の約6割を占めている。これらの部門は、排出削減にあたり非常に重要な排出源であると言えるだろう。

図 1 新規部門分類における2018年度部門別温室効果ガス排出量(電気・熱配分後)

出典:温室効果ガスインベントリ(環境省・国立環境研究所)(2020年公開版)等より作成

3. 新規部門分類における1990年度比の排出変化量

次いで、部門別排出量の1990年度からの変化量を見ていきたい(図 2)。2018年度の総排出量は1990年度から約3,500万トン減少しているが、その減少に最も寄与しているのは窯業・土石製品製造業であり、生産量の減少等により1990年度から約3,900万トン減少している。次いで、第2位は化学工業(約3,300万トン減)、第3位は鉄鋼業であり、これらの製造業関連部門からの排出量は、上述したとおり排出量の絶対量としては上位を占めているものの、1990年度と比較すると総排出量の減少に寄与していることが分かる。
一方、排出量の増加に寄与しているのは、オゾン層破壊物質の代替物質の使用(約4,400万トン増)、家庭(約3,500万トン増)、卸売・小売業(約2,700万トン増)等である。オゾン層破壊物質の代替物質の使用部門が増加している理由は、オゾン層破壊物質であり冷蔵庫や空調機器の冷媒などに使用されてきたCFCs(クロロフルオロカーボン)やHCFCs(ハイドロクロロフルオロカーボン)が、オゾン層保護の観点からモントリオール議定書により規制されたため、温室効果を有するHFCs(ハイドロフルオロカーボン、いわゆる代替フロン)等に転換されてきていることによる。なお、モントリオール議定書は、2016年10月にルワンダのキガリで改正され(キガリ改正)、代替フロンについても生産量・消費量の削減義務が課せられたため、今後代替フロンの排出量は徐々に減少していくことが想定される4
家庭部門は、省エネ機器や省エネ活動の普及、世帯構成人数の減少等により、1世帯あたりのエネルギー消費量は1990年度から約2割減少している一方、単身世帯の増加等により世帯数が1990年度に比べて約4割も増加しているため、全体の排出量は増加している5。その他、乗用車や業務部門(第3次産業)に属する部門が1990年度比で増加を示している状況となっている。

図 2 新規部門分類における1990年度からの部門別温室効果ガス排出変化量

出典:温室効果ガスインベントリ(環境省・国立環境研究所)(2020年公開版)等より作成

4. おわりに

以上、新たな部門分類による温室効果ガス排出量の概況を見てきた。我が国の温室効果ガス排出量の約9割はCO2であり、主として化石燃料の燃焼に伴うCO2排出量(エネルギー起源CO2)に焦点が当てられることが多いが、全てのガスを合算した通例とは異なる部門分類で見てみると、代替フロン(HFCs)や農業に伴うCH4・N2Oの寄与も大きいことが分かる。また、エネルギー起源CO2排出量の文脈では、上述した環境省の公表資料や地球温暖化対策計画6にも見られるように、エネルギー転換部門、産業部門、業務その他部門、家庭部門、運輸部門という部門分類で示されることが多く、この分類においては、家庭部門の排出量は産業、業務その他、運輸に次ぐ部門であるが、各部門を細分化して見ることで、家庭部門が持つ影響の大きさが違った形で見えてくる。
温室効果ガスの排出量は様々なパターンの部門分類による集計が可能であり、排出量やその増減は部門分類の設定如何で大きく変わってくる。違った部門分類に基づく排出量の分析を行うことで、排出削減に向けた新たな示唆が得られることも多い。規定された部門分類に限定せず、多面的な分析を行っていくことも有用だろう。


1 2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について(環境省)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/results/material/kakuhou_all_2018.pdf

2 同上

3 温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告 ~温室効果ガスインベントリ等関連情報~ 2020年提出|UNFCCCへの報告及び審査_温室効果ガスインベントリ
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/unfccc/2020inventory.html

4 モントリオール議定書キガリ改正を踏まえた今後のHFC 規制のあり方について 産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会フロン類等対策ワーキンググループ、中央環境審議会地球環境部会フロン類等対策小委員会(平成29年11月)
https://www.env.go.jp/council/06earth/r0615-01/r0615-01a.pdf

5 2018年度(平成30年度)温室効果ガス排出量確報値(2020年4月発表)要因分析 2.6 家庭部門におけるエネルギー起源CO2(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/results/material/yoin_2018_2_6.pdf

6 地球温暖化対策計画 平成28年5月13日閣議決定
https://www.env.go.jp/press/files/jp/102816.pdf

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