新規30部門別温室効果ガス排出量の比較(2)

2020/08/25 森本 高司
気候変動
カーボンニュートラル

1. はじめに

前回の記事においては、我が国の温室効果ガスインベントリにおける温室効果ガス排出量について、温室効果ガスのガス種や既存のセクター分類に関わらず、新たに設定した30の部門に再集計し、部門別の排出量やその増減状況を見てみた。集計対象とした排出量は、火力発電所等で発生した発電や熱発生に伴う二酸化炭素(CO2)を各需要部門の電力・熱の消費量に応じて配分した電気・熱配分後の排出量を使用した。今回は、この配分を行う前の電気・熱配分前排出量を用いた場合の排出量の状況を見ていきたい。なお、設定した30の部門分類は、前回と同じく表 1のとおりである。

表 1 新規に設定した30の部門分類

※部門別エネルギー起源CO2の排出量には推計誤差が存在するが、今回は集計対象外としている。

2. 新規部門における排出状況(電気・熱配分前排出量)

2018年度における新規部門別排出量(電気・熱配分前排出量)を図 1に示す。電気・熱配分前排出量においては、発電からの温室効果ガス排出量を含む事業用発電・地域熱供給・ガス製造部門が圧倒的に大きく、約4億2,200万トンと突出している(総排出量の約34%)。本部門からの排出はその殆どが火力発電からのCO2排出であり、温室効果ガス排出量の大幅な削減に向けて電力の脱炭素化が最重要であることは、この排出量の大きさから見ても明白である。
次いで、鉄鋼業、乗用車、化学工業、窯業・土石製品製造業と、電気・熱配分後排出量においても上位に位置していた部門が同じく上位に来ている。一方、前回の記事における電気・熱配分後排出量でトップであった家庭部門は、第7位(約5,200万トン)まで下がっている。これはすなわち、家庭部門における電気・熱配分後排出量(約1億6,600万トン)と電気・熱配分前排出量(約5,200万トン)の差分である約1億1,400万トンが電力由来のCO2排出量であることを意味する。電力由来のCO2排出量は、当然ながら電力消費量が削減されれば減少するが、併せて、発電に伴うCO2排出原単位(1kWhあたりのCO2排出量)が下がらなければ大幅に減少することはない。発電に伴うCO2排出原単位は、再生可能エネルギーの導入状況や原発の稼働状況等、国全体としての電源構成に依存する部分が大きいが、CO2排出原単位の低い電力会社を選択する等により、電力の低炭素化を後押ししていくことも重要だろう。

図 1 新規部門分類における2018年度部門別温室効果ガス排出量(電気・熱配分前)

出典:温室効果ガスインベントリ(環境省・国立環境研究所)(2020年公開版)等より作成

3. 新規部門における1990年度比の排出変化量(電気・熱配分前排出量)

新規部門別の1990年度からの排出変化量(電気・熱配分前排出量)を図 2に示す。1990年度から排出量が大きく増加している部門は、事業用発電・地域熱供給・ガス製造部門(約1億2,600万トン増)、オゾン層破壊物質の代替物質の使用(約4,400万トン増)、乗用車(約1,400万トン増)の3つである。特に事業用発電・地域熱供給・ガス製造部門の増加分が大きく、この要因は、電力需要量の増加に伴う発電量の増加と原子力発電の減少に伴う火力発電の増加による。特に石炭火力からのCO2排出量の増加は顕著であり、1990年度から約1億6,100万トン増加している1
上記の3部門以外は、排出量が減少しているか微増に留まっており、火力発電に伴うCO2の排出増が他の部門における排出量の削減量を相殺してしまっているとも言える。1990年度から排出量が大きく増加している3部門のうち、オゾン層破壊物質の代替物質の使用からの排出がモントリオール議定書のキガリ改正に基づく措置により段階的に削減され、ガソリン乗用車が徐々に電気自動車に置き換わっていくことを踏まえれば、事業用発電に伴うCO2排出量の削減は、今後ますますその重要性が増していくこととなるだろう。

図 2 新規部門分類における1990年度からの部門別温室効果ガス排出変化量(電気・熱配分前)

出典:温室効果ガスインベントリ(環境省・国立環境研究所)(2020年公開版)等より作成

4. おわりに

今回新たに設定した部門分類による電気・熱配分前排出量においては、事業用発電に伴うCO2排出量の大きさとその重要性が改めて浮き彫りになった形となった。
現在のエネルギー基本計画においては、2030年度の電源構成(エネルギーミックス)について、火力が56%、再エネが22~24%と設定しているが2、電力の脱炭素化に向け、再エネ比率の大幅な上積みを求める声も上がっている3。電源構成は、温暖化対策だけでなく、エネルギーの安定供給や経済効率性の観点からの検討も必要であるが、2019年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」で掲げられた脱炭素社会4の実現に向けては、再エネの導入を最大限促進していく以外に道はない。今後本格化する次期エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画の見直しに関する議論において、長期戦略と整合した意欲的な方向性が示されることを期待したい。

1 2018年度(平成30年度)温室効果ガス排出量確報値(2020年4月発表)要因分析 2.7 エネルギー転換部門におけるエネルギー起源CO2(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/emissions/results/material/yoin_2018_2_7.pdf
2 エネルギー基本計画(平成30年7月)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/180703.pdf
3 経済同友会は、2030年エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの比率を40%に引き上げるよう提言している。
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2020/200729a.html
4 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」においては、脱炭素社会を「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡(世界全体でのカーボンニュートラル)を達成すること」と定義している。
https://www.env.go.jp/press/111781.pdf

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